宮田光雄著 良き力に不思議に守られて(大島力)

情熱を込めて語る現代へのメッセージ
〈評者〉大島 力


良き力に不思議に守られて
講演・説教・論考

宮田光雄著
小B6判・173頁・定価1540円・新教出版社
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 宮田光雄氏は東北大学においてヨーロッパ政治思想史の研究教育に専念すると同時に、学生伝道に献身し、日曜日の午後「宮田聖書研究会」を主宰し若い世代に大きな影響を与えてきました。とりわけ後者の働きは全国の諸教会における特別伝道礼拝や講演へと広がり、さらに広範囲の人々にキリスト教の福音とそれに基づく社会生活への指針と励ましを与えてきています。本書は、これまでの多くの単行本には収録されていなかった貴重な講演・説教・論考を一冊にまとめたものですが、著者がいかに聖書的信仰に立ち情熱をこめて現代へのメッセージを語ってきたかがよくわかる内容となっています。

 そのことは『良き力に不思議に守られて』という書名に端的に言い表されています。
 この言葉は、D・ボンへッファーの獄中詩からとられています。
 「良き力に不思議に守られて、
 何が来ようとも、私たちは、心安らかにそれを待ちます。
 朝に夕に、神は、私たちの傍らに居てくださいます。
 そして新しいどの日にも、まったく変わることなしに。」
本書のどの文章にもこの詩に示されている神への信仰が基調音として響いています。
 事実、最初の「《出エジプト》─新しい出発」という説教において、荒れ野を四〇年間旅する中でイスラエルの民を養った「マナ」は、「良き力あるもの」の一つであると述べられています。すなわち、イスラエルの民は「奴隷の家」から出発し、その後何もない荒れ野を歩み続ける経験をした。その時与えられた「マナ」は、私たちが人生の途上で遭遇する様々な試練の中で、「新しい勇気と力を与えてくれる心豊かな人と出会うこと」「八方ふさがりの絶望の只中で、決定的な瞬間に示される明快な言葉であるかもしれません」と語られています。
 また、「なすべきことはただ一つ」という説教に記されている次の文章は、過去の失敗にこだわり、自らがなすべき使命に集中できない時に与えられる「明快な言葉」であるように思います。「ただ後ろ向きの姿勢でそれにこだわるときにのみ、それは、とり返しのつかない失敗となるのです。むしろ、キリストの十字架によって赦されていること、その復活の力強い確かさこそが私たちの未来に向かう基盤になっていることを自覚しなければならない。そのときには、過去の失敗は、単なる失敗に終わるのではなく、むしろ〈赦された失敗〉となり、私たちの信仰生活を陰影に富む〈深みのあるもの〉として豊かに生かしてくれるのではないでしょうか」。
 本書に収録された五編の説教には、いずれもこのような力ある言葉が記されています。
 それに加え、「メルヘンの森で神と出会う」という講演では、メルヘンを間接的に信仰の世界の〈比喩〉として読み解くことの可能性が説得的に説かれています。
 私たちの人生を支え導く「良き力あるもの」は不思議な仕方で、人との出会い、言葉、物語、絵画などの芸術によっても、神の恵みの贈物として与えられていると本書は語りかけています。

書き手
大島力

おおしま・ちから=青山学院大学名誉教授

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