マルコ福音書説教の実用ガイド 信徒説教者にも熟練牧師にも
〈評者〉吉岡恵生
毎週の礼拝において講壇に立ち、説教を語る務め。それは、牧師として与えられた最も大きな喜びであるのと同時に、深い苦悩を伴う現実でもある。聖書の御言葉と向き合い、会衆を思い浮かべながら語るべき言葉を探し求める歩みは、時に暗闇を手探りで進むような孤独さえ感じさせる。説教の準備に行き詰まり、一人苦悩する夜を何度体験して来たことだろうか。
孤独の務めに押しつぶされそうになった時、私を力づけ、導いてくれたのは同労者たちとの交わりであった。聖霊の助けを祈り求めつつ、同じように御言葉に仕える仲間と悩みや気づきを語り合い、励まし合う。その温かな交わりの中で、自分一人では決して見出せなかった光を、そして、一つの説教が豊かに形作られていく恵みの体験を、私は幾度も味わってきた。
越川弘英氏の監修による本書は、まさにそのような「同労者との語り合い」を紙上において実現してくれる一冊である。本書は、マルコによる福音書全体を45の箇所に分け、それぞれに「説教準備のスケッチ」「説教例」「説教のヒント」を収めている。執筆陣には、第一線で牧会や神学教育に携わる23名の多彩な説教者たちが顔を揃える。
本書のページをめくる時、読者は単なる説教作成のマニュアルを手にするのではない。そこにあるのは、執筆者一人ひとりがいかにテキストと格闘し、神の恵みを引き出そうとしたかという祈りの軌跡である。深い牧会経験や神学的な研鑽に裏打ちされた執筆陣から、確かな土台を得た上で釈義や黙想のプロセスを辿ることは、まるで同じテーブルを囲み「ここから何を語るべきか」と熱く語り合っているかのような豊かな時間を生み出す。
説教とは、単に文字を追うのではなく、話し言葉で行われる生きた出来事である。「説教例」は、約20 分で語る実践的な分量でまとめられており、文字を通して執筆者の息遣いまでもが伝わってくるようである。さらに「説教のヒント」には、語る際のねらいや留意点が丁寧に記されており、読み手である説教者への配慮と、共に御言葉に仕える者としての温かな励ましが感じられる。
本書の活用法は非常に柔軟である。提示された説教例をそのまま礼拝で用いることも、自身の学びや体験談を織り交ぜて語ることも、独自の説教を作成する際の土台として用いることもできる。それぞれの教会や説教者の実情に合わせて自由に用いることが許容されている点に、現在の教会を支えようとする執筆陣の温かな眼差しと、すべての説教者に対する深い連帯を感じる。
今、日本の教会は牧師不足や高齢化という状況に直面し、信徒が説教を担う場も増えつつある。重責を担い講壇に立つ者や、福音を語り継ごうと苦闘する説教者にとって、本書は心強い同伴者として御言葉を探し求める旅路に伴走してくれるに違いない。説教準備に行き詰まる夜、傍らに置いて語り合いたい、私たちのかけがえのない助け手である。やがて、他の福音書や手紙、さらには旧約聖書まで、聖書の様々な書物において同様のシリーズが刊行されると良いと思う。その期待を新たな時代に託しながら、まずは、イエスの生涯を最初に記したとされるマルコによる福音書を紐解く本書を、教会の書棚に、また説教者の机上に備えたい。
















