
イギリスに留学した一九八〇年代半ば、大学の前に女性のための本屋(Women’s bookstore)がありました。その扉を開いた時から、私の留学生活は大きく変化しました。女性のための本屋では、書籍はもちろんですが、さまざまな小冊子やチラシが並べられていました。まだまだ日本ではフェミニズムが大学の科目として語られることがほとんどなかった時代、そこに置かれていた書籍や小冊子たちは、身近なフェミニズム運動のさまざまなあり方について教えてくれたのです。
宗教関係では、イエスの十字架上の死と復活を最初に目撃したと聖書の中で語られる女性たちの重要性が消し去られてしまったのはなぜかと問うエリザベス・シュスラー=フィオレンツァ(Elizabeth Schüssler Fiorenza)や、カトリック教会を批判して教会を飛び出た神学者のメアリー・デイリー(MaryDaly)、古ヨーロッパには父権文化よりもずっと前に母権文化があったというマリア・ギンブタス(Marija Gimbutas)、女性の視点から神を描いたスウェーデン生まれのモニカ・スジョー(Monica Sjöö)、そしてそれらの書物を自分なりに解釈して日常生活に結び付けようとする女性たちが発信する小冊子たちは、どれも新鮮でした。さらに、キリスト教以前のイギリスにあったとされる女神信仰を再発見しようとする勉強会や活動、そして魔女信仰や自然信仰をともに復活させようとするセミナーやその儀礼のお知らせなどに驚かされるとともに、その多様な女性たちの活動に関心を引き寄せられました。大きな組織や神の名のもとに権威を振りかざされることをよしとせず、無力とされてきた人々が自らの経験の意味を取り戻し、自分の生活になじむものかどうかを自分自身で判断しようとする意気込みが感じられました。そうした書物とともに過ごせた時間は、とても貴重なものとして今も私の人生に残っています。
(こまつ・かよこ=多摩大学名誉教授)














