詳細な解説を付した待望の日本語訳!
〈評者〉宮嵜薫
このたび、マルティン・ノートの『イスラエル十二部族の制度』(Das System der zwölf Stämme Israels)が山吉智久氏の見事な翻訳によって教文館から出版された。大変喜ばしい驚きである。
一九三〇年刊行の原著は、二〇世紀の旧約聖書学の最重要書の一つとされる。その中でノートは、古代イスラエル諸部族の「制度」を理論的に説明し、かの「アンフィクチオニー仮説」を体系的に提唱した。これが一世を風靡したのである。その事実に惹かれながら評者は肝心の本書を読めずにいた。しかし今やこの古典的名著が日本語で読める。まずは翻訳者の労に深く感謝を申し上げたい。
「第Ⅰ部 資料の分析と解釈」(イスラエル十二部族の伝承、成立年代、歴史的土台についての三章)、「第Ⅱ部 結論──『古代イスラエルのアンフィクチオニー』」(古代イスラエルのアンフィクチオニーの全般的な歴史時期、成立、営み、意味についての四章)において、主題テーゼが議論される。さらに付論として、「民数記二六章五─五一節のリスト」「ヨシュア記二四章と申命記一一章二九、三〇節、二七章一─一三節、ヨシュア記八章三〇─三五節の文学的分析」「נָשִָׂׂיאという語の用例と意味」「士師記一九─二一章の文学的分析」の四つがあり、それぞれが前掲テーゼを裏付ける内容を呈している。
全体に読み応えがあり、ノートの一貫した主張と説得的な論述に圧倒される。今読んでもゆるぎない迫力があり、論文とは本来こういうものかと思わされる。
ノートは、イスラエルの諸部族を宗教的に結び付けるべく、中央聖所(聖なる箱の安置所)で祭儀を行う部族同盟が王国時代前の士師時代に成立していたと解明し、ギリシアの「アンフィクチオニー」と呼ばれる部族同盟との類比から「古代イスラエルのアンフィクチオニー」という社会形態の存在を主張した。「十二部族制度」の実在については、三つの伝統的証言(創世記四九章のヤコブの祝福、民数記二六章の人々のリスト、民数記一章五─一五節の部族長のリスト)を証拠資料とする。他の箇所は文学的創作であるとして重んじないが、十二という数は本質的な要素とする。
イスラエル十二部族は旧約聖書全体で複雑に言及されるが、ノートは大胆に聖書の歴史資料を分析し、テキストの文学的統一性と複合性とを切り分けながら、部族制度を論じていく。また申命記史家的見解とアンフィクチオニーの存在との関わりについても随所で述べる。その目配りの広さと解析の細かさからは多くを学べると感じた。
数多の研究者を魅了した彼の学説は、一九七〇年代以降は批判を受け、現在はほぼ顧みられていない。しかし完全否定というよりは、ギリシア的モデルとの関連性の問題や歴史的証拠のなさなどの理由で一旦放棄されたものと認識している。しかしイスラエル十二部族の起源や形態はいまだ謎で、ノート説に代わる学説も浮上していない。ノート説はまだ火種を残しているのかもしれない。
最後になったが、本書のもう一つのハイライトが、訳者解説の「古代イスラエルのアンフィクチオニー仮説をめぐる研究小史」である。ノート仮説の受容と発展の学問的経緯と、約百年も前の本書の邦訳をいま出版する意義をも知ることができ、非常に有益である。古代イスラエル史および旧約聖書学の基礎知識として必読の一冊である。
れた力作である。従来の植村研究を越えて多面的に捉えようとする試みがあり、貴重な資料がちりばめられていて参考になる。














