東京女子大学日々の礼拝メッセージ記録
〈評者〉湊 晶子
東京女子大学では月曜日から金曜日までの一限と二限の間に十五分間の礼拝時間を取り、「讃美歌を歌い、聖書を朗読し、7~8分のメッセージ」のひと時を歴史的に大切にしている。私が72年前の1951年に入学した時から変わりなく継続されている。本書は著者が2016年に本学のキリスト教学の教師に着任されてからの7年間に語られたメッセージの中から30作を選び収録された記録集である。
210頁の中に30作が納められた各メッセージは短く、物足りなさを感じるかもしれないが、文化庁登録文化財であるアントニン・レーモンド建築のチャペルのステンドグラスから差し込む光の荘厳な空間と、パイプオルガンに導かれる讃美歌の後に語られるメッセージは、心の琴線に触れるものばかりである。
遠藤先生が担当された日のメッセージの中から30作が選ばれ、説教題と聖書箇所が目次に記されている。一作ずつ紹介することは不可能であるので、次の三つのテーマに分類して紹介させていただく。第一に人生の土台と目的、第二に存在の喜びと意味、第三にSS精神:犠牲と奉仕Sacrifice and Service である。
1.人生の土台と目的
目次の7「キリストの心を育む」、9「あなたが倒れないために」、11「人生に目的を持つ」、12「人生の土台づくり」、13「キリストの模範」は、人生を生き抜くための土台についてのメッセージである。
それぞれのメッセージは短いが、核となる言葉が含まれている。7「キリストの心を育む」では、東京女子大学の創立以来の教育目標である「知性よりも見識、学問よりも人格、人材よりも人物の要請」について「フィリピ二.1~4」をテキストに、初めて聖書を手にした学生達にも伝わるように語られている。9「あなたが倒れないために」では、ポール・トゥルニエの言葉を引用しながら、「人格形成」の土台を示す。11「人生の土台づくり」では、「岩の上に自分の家を建てた賢い人」(マタイ七・二四)の例えを引用しつつ語るメッセージは若い学生達の人生の土台となるだろう。
2.存在の意味と喜び
目次の5「仕え合う喜び」、6「誠実に愛し合う」、10「いまを感謝し、今日を誠実に」、13「いま、大切にしたいこと」、16「弱さと向き合う」、21「希望を失わず」、22「優先すべき課題」、30「歴史に聴き、明日に生きる」では、各々のタイトルに適した聖書箇所が明示され、学生達の心の琴線に触れるメッセージである。
3.SS精神:犠牲と奉仕 Sacrifice and Service
3「SS精神を育てる」、4「SS精神を生きる」、27「暗さの中でこそ、輝く光」、30「歴史に聴き、明日を語る」は、東京女子大学のみならずすべてのキリスト教学校の教育理念である。遠藤先生が本書において「SS精神とは、Sacrifice and Service『犠牲と奉仕』」と明記し、「初代学長新渡戸稲造の縦のSを神と人の関係、横のSを個人と個人の交わりと定義した」(44頁)と本書において明確に説明して下さったことは貴重である。何故なら、東京女子大学に於いては、ある時期から英語表記が逆転しService and Sacrificeとなり、混乱して来たからである。創立100周年を迎えた今、100年史に明確にSacrifice and Serviceと明記されたことは貴重であり、キリスト教学の先生が、学生たちに語り続けて下さる意義は大きい。この問題点についてはまだ徹底されていないので、湊晶子著『現代を生かす 新渡戸稲造の人格教育』(キリスト新聞社、2023年)を参照いただければ幸いである。
著者の結びの言葉「この世の価値観と神の国の価値観との鬩ぎ合いの中で、いかに福音をお伝えするかという課題と向き合っています。だから、真剣勝負です」から、著者がいかに7~8分のメッセージにいのちをかけておられるかが読み取れます。60年間いくつかの大学でキリスト教学、キリスト教史を担当させたいただいた者として、先生の真剣な眼差しによって必ずや学生たちの「人生の土台づくり」は実現されると確信いたします。
湊晶子
みなと・あきこ=広島女学院顧問・元東京女子大学学長