牧師も教会員も知っておきたい教会的な実務と運営の指南書
〈評者〉古賀博
「困った! 会計書類の見方がさっぱり分からない!」。東京の教会で伝道師として奉仕した後、地方教会の主任牧師となったが、最初の頃、何とも冷や汗ものだったのが会計をはじめとした諸々の教会実務。
伝道師時代は、全てを主任と役員任せで、ボーっと役員会に参加し、専ら青年と関わるという実にお気楽な奉仕。ところが、主任として現場に立つやいなや、当然のことだが、毎日、実務の数々をこなさねばならなくなった。経験が乏しく、実務の内容もよく理解できていないことを痛感。まだ若かったこともあるので、「すみません、よく分かっていません」と役員たちに頭を下げて、一つひとつを教えてもらいながら最初の数年を過ごした。
今回、『教会実務を神学する─事務・管理・運営の手引き』という本が出ると知り、若い頃、現場で苦境に立たされたあの日々をまざまざと思い起こした。
苦い経験を踏まえ、〝牧師に必要なのは、まずは諸事務の理解と遂行力〟と心に刻み、後進にも語り継いできた。そんな私にとっては、願ったりかなったりの一冊。
著者・山崎龍一さんは、私が神学生だった頃、アルバイトスタッフとして働いたあるキリスト教団体の職員であった方。後に公益財団法人となったその団体で、現在は彼が監事、私が理事として共に運営に携わっている。これまで何かとお世話になってきた山崎さんが、教会実務について著されると知って歓喜。しかも単なる実用書ではなく、実務を「神学」している点が肝要。
まえがきに、「本書は……教会実務のノウハウや行政への申請手続きの手順書ではありません。教会実務においてどのような理解をもつことが教会の成熟かつ堅固な歩みにつながり、異なる教えを見極める識別力を生み出していくかという教会実務の神学への試みです」とある。
19歳時に初めて教会を訪ねて、その年に受洗した著者が、これまでの長い信仰生活を通じて、役員あるいはKGKや宣教団体で主事や理事としての経験を積み重ねる中で、時として問題と格闘しつつ培ってきた信仰そのものを実務に則して余すところなく証している。
本の最初に置かれている「推薦の言葉」に山口陽一氏が書いておいでのように、本書のキーワードは「教会的に考える」と「せめぎ合い」の二つであろう。
実務を通じてさまざまな障壁に直面して「教会的に考え」、み言葉に立ち返り、祈りをもっての実践を追求してきた著者。その真摯な信仰に深く心を打たれると同時に、改めて襟を正される想いを与えられた。
この世に立つ教会は、どうしてもキリスト教と世俗の論理の狭間に置かれ、両者の「せめぎ合い」を必然とされる。容易に世に飲み込まれることをよしとせず、あくまでも信仰に立ち返りながら格闘しようとしている著者。こうした姿勢にも大いに刺激を受けた。
役員たちと読み合わせ、学び、語り合いたい。また現場で苦労した経験から、本書をテキストに神学校で実践的な実務への備えが行われ、実務と教会形成とを並び立てる神学教育が必要ではないかと思わされている。
教会実務を神学する 事務・管理・運営の手引き
山崎龍一著
四六判・224頁・定価1980円・教文館
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古賀博
こが・ひろし=日本基督教団早稲田教会牧師