松下景子 著 語らいと祈り (太田和功一)

豊かな霊性と情緒性を伴うキリスト者の人格へ
〈評者〉太田和功一


語らいと祈り
信仰の12ステップに取り組んだ人々の物語

松下景子著
四六判・176頁・定価1650円・ヨベル
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 本書の著者松下景子氏の依頼で、「信仰の12ステップ」参加者のために、毎年一泊二日の祈りと黙想のリトリート(ステップ11・祈りと霊的覚醒)を十数年間ファシリテートしてきた者として待望の書が出版されたことを喜んでいます。
 「信仰の12ステップ」の概要や特徴、また、その必要性については、公認心理師であり臨床心理士でもある家山めぐみ氏がご自分の体験をもとに推薦の言葉で述べておられます。また、巻末の「信仰の12ステップはじめの一歩」ではその具体的内容と始め方や進め方について分かりやすく説明されています。
 著者は、教会に起こった大きな問題の解決を求める中で、「信仰の12ステップ」を日本で始められた広瀬勝久氏に出会い、この自助グループに参加し、後には、ファシリテーターとして、また、事務局の責任者として、延べ420人を超える人々と、誠実に自分自身に向き合い、神の助けと導きを共に求める交わりをもってきました。本書は著者の28年間にわたるその経験のふり返りがもとになっています。
 本書を読んで心が刺されるのは、副題にあるとおり、実際に信仰の12ステップに取り組んだ人々の人生と信仰のストーリーです。著者をはじめ、もう一人推薦の言葉を寄せておられる小暮敬子氏、また、実名・匿名で5名の参加者の赤裸々な体験が率直に語られていることです。

 立場があいまいであっても、多岐にわたる役割が求められる教職者夫人としての疲れ、無力感や敗北感、また、それを分かち合う場のない孤独感、そして、燃え尽きとうつ状態などの苦しみ、人間関係の中での共依存性、壊れた家庭で育ったゆえのゆがみ、人に必要とされたい欲求などが率直に語られています。
 ある人は、夫婦・親子関係の中での依存関係、子どもの親への怒りや引きこもりとうつ症状、そして、逸脱行動などの悩みを、またある人は、社会的には認められ、教会でも役員として責任を負っていても、家庭では妻に当たり、子どもを顧みず、自分に向き合うことなく、自分の弱さを隠してひたすら働く中で突然うつ病に襲われたことを正直に告白しています。
 親の離婚で誰にも頼れず、若くして妹と二人きりで暮らし、大人への怒りをバネにしてがんばっていきてきた人は、“何よりも、誰よりも、強がって生きてきた。決して強くないけれど、強く見せることでしか自分を保てない。いつも正しくあることにしがみついてきた。でも、自分なんていない方がいいと思う死にたい気持ちをずっと持ってきた”と語っています。  ある牧師は、いわゆる宗教二世に近い子供時代を過ごし、“神さまは愛の神ではなく、いつも怒っている怖い神さまであり、毎日死が怖かった。また、いつも親の期待と教会の期待に添うように自分の好きなこともあきらめてきたと思う”と述懐しています。
 一人息子の中学から始まった不登校、家庭内暴力、やむを得ずの子どもとの別居、そんな中で、子どもから逃げた親であると自分を責めリストカットするところまで追い詰められたことを打ち明けることができた人もいます。
 このように自分の痛みや無力さを分かち合えるようになる場が「信仰の12ステップ」です。そして、そこからスタートして、いやしと回復、成長と解放を共に求めてゆく交わりがここにあります。
 個人的なことですが、筆者は10代の頃、信仰の12ステップを日本に紹介した広瀬勝久氏とは同じ聖書研究会の仲間でした。その後、会う機会はありませんでしたが、30数年後に広瀬氏から一通の手紙をもらいました。そこには「あなたと友情を深めたいと願っています。交わりの時を持てたらうれしいです。いかがでしょうか。」とありました。私たちは定期的に会うようになり、心の友としての交わりを持つことができました。多くの人の痛みに寄り添い、自分自身の痛みにも誠実に寄り添い、率直に共有してくれた広瀬氏の願いが実現しつつあることを心から喜んでいます。

書き手
太田和功一

おおたわ・こういち=クリスチャンライフ成長研究会〔CLSK〕シニアアドバイザー

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