相川裕亮著 ビリー・グラハムと「神の下の国家」アメリカ(大宮有博)

その思想を冷静に学ぶ最良の書物
〈評者〉大宮有博


ビリー・グラハムと「神の下の国家」アメリカ
福音伝道者の政治性

相川裕亮著
四六判・300頁・定価2750円・新教出版社
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 その昔、こどもたちが「巨人、大鵬、たまご焼き」に目を輝かせていた時代、日本のクリスチャンは「バルト、ニーバー、ビリー・グラハム」が大好きだった。しかし、今の若いクリスチャンで彼を知るものは少ないかもしれない。
 ビリー・グラハムは、二〇世紀アメリカの最も有名な大衆伝道家である。彼は、野外競技場やホールに大人数の聴衆を集めて行う伝道集会を、世界中の大都市で次々と行った。グラハムは教派から独立した伝道協会を主宰していた。集会を開くときは、開催地のキリスト者に教派を越えた実行委員会を組織してもらっていた。彼は福音派だけでなく主流教派からも支持を得た。それはグラハムが特殊な教理を述べたり、極端な道徳的・政治的立場をふりかざしたりせず、ただ罪の悔い改めを力強く訴えたからである。そして彼はキリスト者に分断よりも一致を呼びかけた。二〇一八年に九九歳で亡くなったが、今なおその人気は高い。

 またグラハムは、ニクソンを応援したころから政治的な影響力を発揮するようになった(本書第四章)。ブッシュ親子との親密な関係も有名である。長らく大統領選になるとグラハムが誰を支持するかが注目された。しかし彼は、政治権力とは「つかず離れず」の距離を保った。彼の政治との距離はあくまでも福音伝道者としてアメリカを導くための手段なのだ。その点が八〇年代以降に台頭するキリスト教右派と決定的に違った。それゆえに彼はアメリカ人に尊敬された。
 本書の著者は政治史・政治思想史が専門分野である。そして本書は法学研究科に提出された博士論文を加筆修正したものである。著者は、グラハムの罪論と福音伝道家としての職務観に着目しながら、グラハムの思想全体を明らかにしている。なお本書のフォーカスはニクソン時代に絞られている。また各章ごとに、グラハムと比較する対象を置き、フィンステューエンといった先行研究を検証するという論文の模範的スタイルを貫いている。したがって、とても読みやすい。しかも、本書をていねいに読むと、一行一行に学ぶべき点がちりばめられている。グラハムのような人気のある伝道者に関する研究は、どうしてもグラハムのファンかアンチかに分かれてしまうが、本書は極めて冷静にグラハムを分析している。
 本書を概観する。第一章で著者は、グラハムの人物像を明らかにするためにアメリカ新福音派とファンダメンタリストの歴史を概観し、彼が「福音伝道家」としてアメリカ・キリスト教史の舞台にどのように登場したかを述べている。
 第二章で著者は、グラハムの神学を罪論と福音伝道者としての職務観に焦点を置いて説明する。ここではR・ニーバーによるグラハムの罪論に対する批判が取り上げられている。
 第三章で著者は、グラハムのソ連に対する姿勢を、ファンダメンタリストのカール・マッキンタイアと比較しながら述べている。マッキンタイアがアメリカとソ連・共産主義を善悪二元論で見たのに対して、グラハムは共産主義を欧米人に自省を促すものとして捉えた。
 第四章は、グラハムとニクソンの関係についてである。あわせて、ここでは「積極的思考」で有名なノーマン・ピールと比較しながら、グラハムの罪論がどのように変遷したかが述べられている。彼は伝道説教を重ねるなかで、罪についての考え方を練りなおした。
 第五章は、ベトナム戦争をめぐるグラハムとハットフィールド上院議員の間の議論についてである。ハットフィールドはグラハムとニクソン政権の近さを批判し、もっと政治に対して預言者のように対峙すべきだとグラハムに忠告した。それに対してグラハムはハットフィールドを高く評価しつつも、一致を呼びかけた。
 本書は団塊の世代のクリスチャンを魅了したビリー・グラハムの思想を冷静に学ぶ最良の書物と言える。

書き手
大宮有博

おおみや・ともひろ=関西学院大学法学部教員

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