改革教会の伝統と将来

日本伝道を切り拓く希望がここに!
〈評者〉藤掛順一

 日本において改革派長老派の伝統を受け継いでいる教会は、現在いくつかに分かれて存在している。どの教会も元々は旧「日本基督教会」に属しており、1941年の日本基督教団の合同に参加していたが、戦後、「日本キリスト改革派教会」(現在の名称)が1946年に離脱し、「日本キリスト教会」(現在の名称)が1951年に離脱してそれぞれ独自の教会となった。日本基督教団に留まり、教団内でその伝統を継承しようと志している群れが「連合長老会」である。その他に、戦後に誕生した「日本長老教会」等もある。本書は、日本キリスト改革派教会の神学校である神戸改革派神学校の教授である著者が、これらの諸教会において最近五年間に語った講演等を集めたものであり、全体を貫いている主題は「日本における宗教改革伝統の受容と課題」である。
 基本的には同じ改革派長老派の伝統を受け継いでいる教会がいくつかに分かれて存在しているのは、その伝統の何を受容し、どう継承してきたかの違いによる。それによってそれぞれの教会の特徴と課題が生じている。著者は「それぞれの教会の特徴と課題を認識し、その上で豊かな交わりを築いていければ」(あとがき)との願いをもって語っている。と同時に「自らの伝統を深く認識し、現状の課題を厳しく見つめて取り組むところから、教会の将来が開かれていくと信じています」(同)という視点から、伝道の停滞、教会の対外的ディアコニア、教会と国家、天皇制、そして「コロナ禍」という「現状の課題」を取り上げている。
 著者の立ち位置はもちろん「日本キリスト改革派教会」であり、「ウェストミンスター信仰規準」によって「ある意味徹底的に宗教改革に遡る歴史的改革派教会を建てようとする路線」(56頁)である。著者はそこに立ちつつ、その路線を絶対視することなく、もっと広い(「曖昧な」とも言える)仕方で改革教会の伝統を捉え、受け継いでいる教会にも理解を示しつつ対話しようとしている。そこで感じさせられるのは、「現状の課題を厳しく見つめて取り組むところから、教会の将来が開かれていく」という道を歩もうとする時に、信仰と教会形成における明確な規準を持っていることはやはり大きな「強み」であるということである。そこに立っているからこそ、様々な問題を教会の課題として捉え、取り組みのための教理的裏付けを示すことができるのである。
 改革教会の伝統を受け継いでいる諸教会の対話と交わりのために本書の意味は大きい。この対話を深めていくことに、日本の教会の将来を開いていく希望を見ることができると思う。
 なお本書の中の「キリスト者は天皇制をどうとらえるべきか」における、「私は現代という時代の認識として、キリスト教会は天皇制に対して、二度目の大敗北を喫したのだと思っています」という指摘を、我々は襟を正して聞かなければならないと思う。

改革教会の伝統と将来
袴田康裕著
四六判・216頁・1980円(税込)・教文館
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書き手
藤掛順一

ふじかけ・じゅんいち=日本基督教団横浜指路教会牧師

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