アドベントの恵みの捉え直し
〈評者〉マリア・グレイス笹森田鶴
この本は急いで読めない─ ─いや、急いで読んではならない書物です。なぜならば本書に収められている内容自体が、「待つ」ことの考察であり、問いかけだからです。決して難解ではない文章でありながら、読者はまるでアドベントクランツのろうそくを一週間ごと一本ずつ灯していくように、少しずつ読み進めざるを得ません。むしろそうして読むことで、項目ごとの聖書の物語を改めて噛み締めることに心が向けられていきます。やがて本書は、読者を時空を超えた信仰の旅へと導きます。読み終わることすらも「待つ」ことが求められ、「待つ」時間が価値となります。この霊的な旅の恵みの故に、読者は容易に現実へ戻りたくなくなり、この世界に没頭したいと願わされるでしょう。
しかし本書は、推理小説のように答えに辿り着く旅でも、空想の世界に終始するものでもありません。過去と終末の狭間にある今に生きわたしたちに、神がなぜ「待つ」ことを求めるのかを立ち止まって深く考え続ける行動へと招くのです。本書は、教会にとって重要なアドベントを、期節の枠を越えて生き方へと高め、「待つこと」の喜びと意味を思い巡らすにふさわしい一冊です。
「訳者あとがき」にあるように、ポーラ・グッダーは、イギリスの新約聖書学者であり人気作家でもあります。来年3月に第106代カンタベリー大主教に就任するサラ・ムラリー主教と同じロンドン教区のセントポール大聖堂参事会において信徒として初めてチャンセラー(教育担当参事)に就任し、現在もその務めを担っています。またロンドン大学などで客員教授を務める他、神学者・説教者として注目されている人物です。訳者・中原康貴司祭によって、日本でグッダーの著作が紹介されることは大いなる恵みでありましょう。
本書は、聖書の物語と聖書の歴史観を柱としています。序章で待つことをめぐって考察した後、各章では、アドベントクランツの順番に沿って、信仰の祖アブラハムとサラの物語での「待つことへの招き」、預言者たちの働きにみる「主の日を待つ」こと、洗礼者ヨハネを通して示される「時の狭間で待つ」姿勢、そしてマリアの「待ち続けた生涯」が取り上げられます。著者は最新の聖書学に基づくダイナミックな物語の真髄を語りつつ、自分の人生の場面─ ─聖書朗読、妊娠・出産、子育て、家族観─ ─などと結びつけて展開していきます。そこに浮かび上がるのは、聖書の登場人物一人ひとりの生涯がどれほど予期せぬ冒険であり、当時の社会や常識にとって破壊的でありながら創造的で新しく、待ち続けることが求められ、揺るぎない神の愛に支えられていたかという事実です。
本書は、過去の出来事を待ちつつ、将来に到来する栄光を待ち望む信仰へと、時間を溶かしながらわたしたちを招き入れます。そしてその未来を、今ここに少しでも実現するよう祈り務める生き方へと促します。アドベントを通して私たちが生き方を変えられていくための道標がここに示されています。
近刊として本書にも紹介されているポーラ・グッダー著『私を遣わしてください─ ─レントのこころ』(中原康貴訳、ヨベル)の出版も、喜びのうちに「待ち」望みます。


















