現代のキリスト教教育学を論じた本格的な精選論文集・学術研究書
〈評者〉吉岡良昌
現代キリスト教教育学研究
神学と教育の間で
朴憲郁著
A5判・680頁・本体7500円+税・日本キリスト教団出版局
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本書は朴憲郁氏が日本の代表的な神学教育の機関である東京神学大学で、教会とキリスト教学校の教員養成のために25年間の長きに亙って心血を注いで研鑽してきたキリスト教教育学の精選論文集であり、学術研究書である。680頁に亙る大著は、キリスト教教育学樹立に向けて必要不可欠な視点からの論述として、ほぼ全貌を網羅していることを物語っている。章立ては、「聖書神学の視点」「教会教育の視点」「神学諸分野の視点」「神学教育の視点」「キリスト教教育学の視点」「信仰と教育の視点」「人間形成の視点」「モラル教育の視点」「キリスト教学校の視点」「社会・民族・国家の視点」の「視点」から成る十章で構成されている。これは精選論文集の体裁をとっているからであり、内容的には、キリスト教教育学の五W一H、すなわち、本質論(what)目的論(why)コンテキスト論(where)レディネス論(when)教師論(who)そして方法論(how)が網羅されている。副題は「神学と教育の間で」となっており、神学大学の養成機関として神学「教育」に力点が置かれているのは当然であるが、人文科学としての教育学や心理学との対話という意味での「教育」が含まれていることは、現代ドイツのキリスト教教育学者ニプコウの論説を説明紹介する中で明らかにされている(262頁)。1960年代後半から起こった革命運動に伴ってキリスト教伝統も危機にさらされ、教会の中でさえ、一般の教育理論が影響を及ぼし始め、「教会教育学」の概念が芽生え始めたとの指摘は重要である(59頁)。従って、第二章「教会教育の視点」において、筆者は、「教会教育学」の出現とその特性を論じ、神の前における信仰による学習と生の場所としての教会を論じ、教会学校における児童礼拝や受洗志願者―堅信者教育そして成人教育に至るまで教育論として丁寧に論じている。ドイツで始まった「教会教育学」の学問の成立は、今後の日本の教会にもいずれインパクトを与えるに違いない。
本書の中心は第五章「キリスト教教育学の視点」である。ここでは「キリスト教教育学」の本質が論じられている。神の前で共に生き、信じることを学ぶ共同体として個教会がいかにしたらすべての人の学びの場になりうるかが問われている。西洋における近代化はキリスト教の世俗化と同時進行的であった。その世俗化時代に生きる現代人に宗教的言語が意味を持つ教授法として、象徴教授法が注目され始めた。そのことに着眼した筆者は、ビールの「象徴学習」理論やパウル・ティリッヒの「宗教的象徴」の主張点を丁寧に論じている。目に見えない神の真理は言葉のイメージを通して、人間の感覚や経験に伝達されるので、「象徴化」は、学習者が実体験と理解と合意を自分のものにする基本的行為であると結論づけている(325頁)。この象徴学習による教授法はメディア時代の今日、児童の信仰教育を有効にできる意味でも注目されるであろう。その他の「信仰と教育」にまつわる断絶と継承の問題や、「キリスト教学校」における教授法など、紙面の都合で割愛せざるを得ない。第六章二節のみが、「です」調の文体のままであり、446頁に一か所脱字があった。最後に『キリスト教教育学』の標準的な教科書の出現を期待して書評を閉じたいと思う。
吉岡良昌
よしおか・よしまさ=東洋英和女学院大学名誉教授