かつてバーゼル大学神学部で博士論文に取り組んでいたとき、『今日のカトリック教会のルター像』(Das katholische Lutherbild der Gegenwart, 1982)をはじめとするG・マロン氏(Gottfried Maron)の作品に出会った。氏はエキュメニカルな視点に立ちつつ、「熱狂的な」エキュメニカル運動と頑なな教派主義を橋渡しすべく、対話と研究に取り組んだルター研究者である。氏は、第二ヴァチカン公会議以後、飛躍的に発展したカトリックのルター研究を分析・紹介しつつ、ルターをめぐる歴史理解から対話の可能性を引き出すべく模索した。緻密な歴史研究と明晰な神学思考に基礎づけられたエネルギッシュな作品に、歴史神学を学び始めたばかりの私は感銘を受け、その名を深く心に刻んだ。
それから20年以上の時を経て、氏を近くに知る思いがけない機会が与えられた。宗教改革500年を記念してミュンヘン大学からH・エルケ氏(Harry Oelke)を同志社大学神学部にお招きしたとき、彼がかつてマロン氏の助手であったと聞いたのである。私は勢いづき、尊敬する神学者がどのような人であったかと尋ねたところ、エルケ氏は、このような話をしてくれた。マロン氏、エルケ氏ともにバイクを好み、二人でよくキリスト教史の重要な地をめぐる研修旅行をしたという。その地に着くと、どちらかが建物や遺跡にまつわる報告を行い、歴史を体感する、そのような学びであったという。それを聞いて、歴史の現実との葛藤から生み出された氏の作品を思い起こし、納得した。
かねてより歴史の学びには歴史を感じることが不可欠と考えていた私は、早速これを院ゼミに取り入れた。しかしこの研修は周到な準備と要を得た説明を必要とし、容易には成果を上げられなかった。学生には難しいかと諦めかけていたところ、学部ゼミ生が乗ってくれ、春のフィールドワークで実施すべく準備を進めている。うまくいくことを願いつつ…。
(むらかみ・みか=同志社大学神学部教授)
村上みか
むらかみ・みか=同志社大学神学部教授