カギは「入植者植民地主義」だ!
〈評者〉中野真紀子
イスラエルによるガザ市民への無差別大量殺戮が続くなか、アメリカ合衆国は一貫してイスラエルを支持し続けてきた。国際司法の場でジェノサイド批判が高まってもその姿勢は揺るがず、むしろトランプ大統領の登場以降、国連を中心とする戦後国際秩序そのものを解体しつつあるように見える。なぜそこまでしてイスラエルをかばうのか?
しばしば指摘されるのは、イスラエル・ロビーの政治的影響力や、最先端軍事技術の開発拠点としてのイスラエルの戦略的重要性である。しかし本書が提示するのは、より根源的な思想的基盤、すなわちキリスト教シオニズムの存在だ。聖書の物語や神学概念を用いて、ユダヤ人によるパレスチナへの入植と植民地支配を正当化するキリスト者の思想と実践である。
米国人口の約三割を占める福音派キリスト者の多くは、聖書の預言を寓話ではなく文字通りの歴史像として受け取る。彼らにとって、ユダヤ人が「約束の地」に集結することは、イエス再臨と最後の審判に向かう終末シナリオの起点である。そのなかでも、ユダヤ人をパレスチナに「帰還」させることが神の計画成就に不可欠だと考え、イスラエル国の存続を無条件で応援する人々がキリスト教シオニストだ。この思想が周縁的なカルトではなく、一九七〇年代以降の米国の中東外交を方向づけてきた巨大な社会勢力であることを、本書は解き明かす。
歴史をたどれば、キリスト教シオニズムはアングロサクソン特有の入植者植民地主義と分かちがたく結びついている。ニューイングランド植民地のピューリタンは自らを神と特別の契約を結んだ「新たなイスラエル」とみなし、北米大陸を「約束の地」と呼んだ。イスラエルを無条件に擁護するのは、白人入植者国家として成立した自国の過去を正当化するためだと、本書は論じる。
キリスト教シオニズムは、ユダヤ人の近代シオニズム運動よりも古く、宗教改革期に萌芽をもつ。十九世紀に英米のプロテスタント教会で前千年王国説が広まり、エリート層がユダヤ人の「改宗」とパレスチナへの「帰還」を支援する基金や団体の設立に関与し始めた頃から、この宗教的信念は明確な政治運動へと転化していった。この動きは、中東支配を目指す帝国主義的構想と密接に連動している。
本書は、こうした思想史的展開を踏まえつつ、現代の主要団体の活動や日本における受容と影響にも目を向けている。また、シオニズムを宗教右派やペンテコステ派だけの問題ではなく、プロテスタント全体にしみ込んだ問題として捉え、真摯な取り組みを促している。この点で、キリスト教シオニズムによる聖書解釈の問題点を指摘し、別の解釈を提示する第八章「聖書から学ぶ」の内容は興味深い。ここに、日本の教会がキリスト教シオニズムと決別する第一歩があると言えるだろう。
植民地主義とキリスト教の関係は興味深いテーマであるが、深掘りしようとすると専門的な教義解釈に足をとられて、門外漢には敷居が高い。植民地支配との連続性を軸にキリスト教シオニズムの歴史を整理した本書は、簡潔な記述で要点を網羅しており、大きな流れを理解するのに役立つ非常に優れた参考書である。














