英国ナザレン神学校著/大頭眞一と焚き火を囲む仲間たち訳 聖化の再発見 上・旧約 下・新約(原田彰久)

自己理解と相互理解のために
〈評者〉原田彰久


聖化の再発見 上 旧約 教会史
英国ナザレン神学校著
大頭眞一と焚き火を囲む仲間たち訳
A5判・上:288頁・定価2200円・いのちのことば社
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聖化の再発見 下 新約 聖化の用語
英国ナザレン神学校著
大頭眞一と焚き火を囲む仲間たち訳
A5判・下:296頁・定価2200円・いのちのことば社
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 「『新改訳』……が礼拝用として協会訳['口語訳']に代わり得るかどうか、疑問である。それは訳文の優劣というよりも、『新改訳』が特定の教派[ファンダメンタリストの人々ときく]による翻訳であるというところに問題があるのではなかろうか」(永嶋大典、『英訳聖書の歴史』、研究社出版、昭和六十三年、一七四ページ)。評者は主流派にあって福音派(あえて言えば、ファンダメンタリスト)の立場であるが、こうした評価は、今も変わらないであろうか。本書は、そのようなキリスト教界の自己理解と相互理解に資するものとして、一石を投じる重要な出版である。

①自己理解のために
 まず本書は、ホーリネス派のアイデンティティを明らかにしている。執筆者たちの属する神学校は、日本ナザレン教団と同じ、十九世紀の北米ホーリネス運動の流れにある。しかし、イギリスにあることで、北米とは異なる特色を持つ。
 本書出版のきっかけは。監訳者の大頭眞一が抱いた「違和感」(上巻、二七三ページ)であった。その原因は、北米のホーリネス運動とその理解の上に日本の「きよめ派」が形成されてきたからである。本書は「ホーリネス」についての、主として聖書学に基づく考察である。その点では、立場を越えた視点を提供していると言えよう。上巻は旧約から、下巻は新約から検討しているが、上巻には、短いながらギリシア教父の聖化理解も取り上げている(第二〇章)。特に、第一章「聖化の再発見の必要性」と第二章「スタートポイントはどこに」は繰り返し読みたい。

②相互理解のために
 次に、他の信仰伝統から、いわゆる「きよめ派」を理解する上で有益である。「解説」で、旧約聖書学が専門の鎌野直人(関西聖書神学校)が「北米『きよめ派』……で展開されている議論があまりにも稚拙であったことを思い出す。本書で……はるかに学問的にも耐えうるものであることを、たいへん嬉しく思っている」(下巻、二九三ページ)と述べている。
 また神学校の講座で「きよめ派出身の学生たちは、内輪のことばを使わずに教義を明確にすること、……聖化への呼びかけに惹かれている人々の洞察を取り入れることが求められた」(上巻、八ページ)とある。こうした内容をふまえ、自己や相互、特に日本の読者に対して、イギリスのジョン・ウェスレー、北米のフィービー・パーマーなど、これまでの「ホーリネス」理解を生みだした歴史、その概略図を示す丁寧さが求められるのではないか。

③今後の課題
 最後に、上巻の第九章に「私たちは『ベウラの地に住まう』……の讃美歌をよく歌った」とある(九五ページ)。なぜ「ベウラの地」について歌うのか(聖歌六〇〇番)、他の伝統はもとより、私たち自身もあまり知らないのではないか。「ベウラの地」はイザヤ書六十二章四節にある。だが元来は、ジョン・バニヤンの『天路歴程』で天国の門の手前にある「ベウラの地」(地上の到達地)を指している。十九世紀北米ホーリネス運動は、救いを旅(天路歴程、出エジプト)として理解し、「ホーリネス」の体験を地上の目標としたからこそ「ベウラの地に住まう」と歌う。
 こうして、分かっているつもりのことを再確認しつつ、新たな地平を開くために、本書は大変有益である。主流派で「聖化」に惹かれている人があろうことを期待して。

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