問いかける信仰、問われる信仰 何をいかに継承するか
〈評者〉伊藤悟
CATS日本キリスト教会大信仰問答(ビジュアル版)
日本キリスト教会著
A5変形判・144頁・定価1980円(税込)・一麦出版社
教文館AmazonBIBLE HOUSE書店一覧
一つの教派・教団が信仰告白や信仰問答を制定するというのは並大抵のことではない。この度上程された『日本キリスト教会大信仰問答』は一九五八年に起草され、じつに六二年もの歳月をかけての研究、推敲、改訂、協議の結実として、いよいよこの度の刊行となった。心から敬服する。
信仰問答は信仰告白から発出し信仰告白を規定する。信仰問答は、そもそも受洗志願者の準備教育や信徒の訓練のために用いられてきたのであるが、聖書信仰に立ち続けるためのガイドラインとなって信仰者を信仰者たらしめ、そして教会と説教者を聖書(神の言葉)の前に立たせてきた。
それゆえ信仰問答は、教会の礼拝や説教、教会の宣教のあり方、信徒の日々の生活に強く影響を与える羅針盤であり航海日誌である。
私たちを取り巻く世界はいま大きく変貌を遂げている。第四次産業革命、ソサエティー5・0、シンギュラリティ、スマートシティといった言葉が頭上を飛び交う。9・11、3・11は悲劇と苦悩と傷跡を表す数字となった。世界は共存と分断の激しい振幅のなかに置かれている。その最中に新型コロナによるパンデミックが起こった。人々の生活や経済は一変し、教会の礼拝も教育のかたちも中断や変容を余儀なくされた。不安や虚無が世界を覆い、多くの者が心傷ついている。確かさや信じてきたものが瓦解し、寄り添いたくても会うことができず、感染リスクが交差する。問うことも答えることも儘ならない。だからこそ、いま、どのような信仰を告白し、どのように問答するかが問われている。
カテキズム(信仰問答)は信仰と生活とを繋げるツールであり続けてきた。ツールはそれを用いる技工士が上手に用いることによってその機能や特徴を十分に発揮させ、活きた信仰を育て上げていく。それゆえ信仰問答を飾り物にしたり神格化させたりしてはならない。日本キリスト教会が大信仰問答を公刊したというのは、これによって生きた信仰を育て上げ、その信仰を継承し、これに従って宣教することを、神と人とに告白(宣言)したことに他ならない。揺れ動く時代のなかで、信仰問答が教会自身を問いかける。
本書は、全14章、序説(問答1~11)、第一部信仰篇(問答12~166)、第二部生活篇(問答167~299)の全二九九の問いと答えによって構成されている。とくに第二部の生活篇は伝統的信仰問答の枠組みを踏まえて三要文(使徒信条、十戒、主の祈り)を土台としており、そこに日本キリスト教会の教会論の独自性がよく表されている。
装丁はじつに斬新である。Catechism から「CATS」との愛称?をつけ、猫のイラスト、写真、絵画が各ページにふんだんに使われている。内容の重厚さとは裏腹に、まずはどの問答からでもめくって読み始めてほしいという意図が随所に見られる。すべての問答には典拠となる聖書箇所が付され、漢字にはすべてルビが振られている。ビジュアル版とだけあって、宗教画から現代アートまで所狭しと配置されているが、できればそれぞれの写真や絵画の題目や説明があるとより豊かな学びになるであろう。
伝統的には大信仰問答は教職・長老向け、小信仰問答は洗礼志願者教育や信徒教育に用いられる。このたび「大信仰問答」が出版されたが、「小信仰問答」もすでにあると聞く。こちらのビジュアル版も近い将来出版されることを期待したい。
伊藤悟
いとう・さとる=青山学院大学教授
- 2022年1月1日