奥田知志著 ユダよ、帰れ(関田寛雄)

深い闇の中で朝の到来を信じる
〈評者〉関田寛雄

ユダよ、帰れ
コロナの時代に聖書を読む

奥田知志著
四六判・268頁・定価1980円・新教出版社
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 本書は、「皆さん、おはようございます。オンラインで参加の方々もおはようございます」という言葉で始まる東八幡キリスト教会の礼拝説教の集成であり、著者にとって初の説教集でもある。著者は周知のごとくホームレス支援全国ネットワークの代表として多くの講演もし、NHKの諸番組にも登場している牧師である。
 著者は三十有余年に及ぶ北九州のホームレスの方々との出会いの中で、「神不在」の悲惨な状況に巻き込まれつつ「不在の神に祈る」(シモーヌ・ヴェイユ)、「神の前に神と共に神なしで生きる」(ボンヘッファー)という信仰を養われてきた。だから「キリスト教徒にならないと救われない」というような「スケールの小さい」キリスト教とはっきり決別する。学生時代に大阪・釜ヶ崎での労働者との出会いから始まった著者の働きは、その現場の中に隠されたイエスとの出会いに触発され、一人一人の物語の中にイエスの生きて働く姿を見出し、それに導かれて牧師を続けている。
 それゆえ本書を別の表題で表すとすれば『オクダによる福音書─〝あなた〟を招く慰めと希望の言葉』となるべきだろう。その説教の特質は第一に、分かりやすい生活の言葉で語られていることだ。関西弁で著者独特のリズムで語っている。第二に、具体的な例証、なかんずくホームレスの方々との出会いの文脈を通して、聖句を新鮮に輝かせていることだ。第三に、多くの苦難を十字架と復活の信仰によって超克した方々から引用し、読者の心を揺さぶる感動を引き起こすことだ。第四に、自分についてのユーモアたっぷりな表現が、説教を聴衆にとって極めて身近なものとしていることだ。第五に、十字架と復活の信仰告白が本書に一貫していることだ。それは「悔い改め」を強調するルカ福音書の中にすら、「悔い改め」なるものを知らない者をも包摂し、癒やし、希望をもたらす福音を見出す。それこそ彼が長年の時を費やし、近隣の住民の反対にも打ち勝って設立したホームレス自立に向けての施設「抱樸館」の精神でもある。抱樸とは、切り倒されたゴツゴツしたありのままの木をそのままに包摂する精神である。
 圧巻は、表題ともなっている説教「ユダよ、帰れ─ホームとは何か」である。従来キリスト教会では、イエスを裏切った極悪人としてイスカリオテのユダこそ救われない人間として伝統的に語り継がれてきた。ペテロをはじめ十一弟子もイエスを捨てて四散した。しかしユダだけは自分の非を認め銀三十枚も祭司長、長老たちに返しに来た。しかし彼らは言った、「それは、われわれの知ったことか。自分で始末するがよい」と。いわゆる自己責任論である。追いつめられたユダは首をつって死んだ。著者はさらに言う。「彼は帰る場所を間違った。赦しのない場所に帰ってしまった。……もし、ユダが帰るべき場所、「ホーム」に帰れたら、彼は生きられたと思います」。そして著者は、地獄に落ちたユダに対して、イエスに次のように語らせる。
 「『ユダよ、帰れ。お前が帰るべきは私のところなのだ。私こそがお前の帰る場所、ホームなのだ。私はお前よりも先に地獄に下り、お前の受けるべき裁きを受けた。お前の罪は裁かれた。大丈夫だ。お前は赦された罪人としてこれからも生きるのだ。私と一緒においでなさい。さあ帰ろう』。ユダはイエスに抱きとめられ天へと昇っていきました。イエスの懐に抱かれたユダは、まるで赤ちゃんのように大声で泣き続けました。その日、ユダは帰郷を遂げたのでした。以上が『オクダによる福音書』です」(一〇〇頁)。
 筆者はここを読むたびに涙を催す。
 東八幡キリスト教会の地下には納骨堂が設置されている。ハウスにもホームにも恵まれないまま世を去った方々の遺骨が何百体も納められている。そこに入る扉には「わが父の家には住まい多し」と刻まれている。かつてこの場に立って筆者は言葉を失い、神の憐れみをそのまま象徴する納骨堂を設置した著者の心を思い、この時も涙に導かれた。
 本書に引用されている五木寛之の言葉に因んで本書の内容を一句で表せば、
 アサガオは光を待ちて闇に咲く

書き手
関田寛雄

せきた・ひろお=日本基督教団神奈川教区巡回教師

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