岡田稔の神学 神の主権と恩恵に生きた神学者

改革派神学の伝統に立つ
〈評者〉松田真二

 本書の目的について著者は、「日本キリスト改革派教会はすでに70年をこえる歴史を刻み、創立80周年に向けて備えつつある。今この時、このきわだった先達の神学的業績から多くを学び取りたいと願うものである。岡田神学を学ぶことは、決してその地点にとどまることを意味しない。その内実をていねいに評価し検証する作業を重ねていくことは、神学的伝統の継承とともに改革派神学の新しい地平を開いていくことにも益するであろう」と述べている。その意味において、日本キリスト改革派教会だけでなく、改革派神学の伝統に立ち、学んでいる者にとって必読の著作である。
 本書の構成は、第一章「改革派神学運動と岡田稔」、第二章「岡田稔の神学的立脚点」、第三章「岡田稔の神学理解」、第四章「岡田稔の教会理解」、第五章「旧日本基督教会の伝統と岡田稔」、補論「米国南長老教会の神学と岡田稔」である。
 第一章において、著者は改革派神学運動について論じ、その神学的基礎、土台について、カルヴァン主義、唯一の規範としての聖書と従属的規範としての信条、神の主権と救いの恩寵性、教会の自律性を岡田から読み取っている。第二章は、岡田の神学的立脚点について論じ、「福音の前提としての有神論の強調」「聖定の教理の尊重」「聖書の絶対的権威の承認」の三点を取り上げる。有神論的思惟とは、被造世界のあらゆる領域を神のまなざしのもとに置き、そのあらゆる場所で神の主権を承認することで、悪しき二元論を克服することができると論じる。さらに聖定論とは、三位一体論的キリスト論に基づいて神と世界と人間との関係を明確にするあらゆる思考の出発点であり、神の主権性と万物の統一性の原理であり、ペラギウス主義や新近代主義、あるいは汎神論や理神論を克服することができると論じる。第三章は、岡田神学の精髄である『改革派教理学教本』を考察する。著者は、岡田が組織神学や教義学ではなく教理学とした意味について論じる。教理学とは、宣教に奉仕する「手引き」「綱要」であり、聖書の深い唯一の意味を探究することであり、アウグスティヌスやカルヴァンが採用した名称であること、さらに、教理学とは個人の信仰の表明ではなく、教会の信条の学的釈明である、と説明している。このことは、評者も同感であり、教会における教理の重要性は改革派神学の伝統であり、岡田が教理学としたことは意味深いことである。第三章の中で、特に改革派神学において今日では軽視され、片隅の付属問題扱いを受けている教理である「キリストとの結合」と「子にすること」を、岡田が論じていることに神学的業績がある。「キリストとの結合」は、ニーゼルが「改革派教会の中心的教理である」と述べているように、カルヴァンの救済論全体の中心的な教理であり、『ハイデルベルク教理問答』の主題である。また「子にすること」は、牧田吉和が「日本語で書かれた教義学の諸著作のなかでは『子とすることの教理』に特別な注目を払っている点で、岡田の立場はユニークな位置を占めている」と評価している。第四章は、岡田の教会論の論考であるが、非キリスト教的日本社会に生きる教会にとって、さらに信仰の私事化・内面化に対して、第三章の中に置かず第四章で別に取り上げていることは、著者の優れた神学的見識である。岡田のキリストの三職論からの教会権能と教会と国家の論考は、今日の教会において重要である。第五章は、岡田が植村正久、高倉徳太郎、熊野義孝の神学について論じているものを著者が纏めたものであるが、大変興味深く、一読すべき価値がある。さらに、岡田の日本宣教論について、旧新約聖書の統一性、すなわち、旧新約聖書を一貫した救済史としてとらえ、そこから日本伝道に着手すべきことを解読していることに共感するものである。
 最後に、学生時代岡田稔の改革派神学にふれて以来、改革派神学を学んでいる一人として、『岡田稔の神学』が出版されたことは、大きな喜びであり感謝である。

岡田稔の神学
神の主権と恩恵に生きた神学者

木下裕也著
A5判・332頁・定価6160円・一麦出版社
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書き手
松田真二

まつだ・しんじ=日本キリスト教会神学校組織神学講師・日本キリスト教会蒲田御園教会牧師

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