老いへの対策と老いの効用、恵みを知ろう
〈評者〉疋田勝子
私は現在八〇歳近くで、内科と整形外科に通いながら十種類の薬を服用し杖をついての生活をしています。年とともに、先々を考えると不安なことがいろいろ出てきます。そんな私が精神科医師の石丸昌彦先生の著書『老いと祝福』に出会いました。これは、私がこの世での人生を閉じる前の神さまからのプレゼントだと思いました。著者が深い信仰と豊富な知識をもって、「老い」は「恵み」だと、こころに響くかたちで教えてくれているからです。
本の「はじめに」の部分で、柏木哲夫先生の著書『「老い」はちっともこわくない─笑顔で生きるための妙薬』が紹介され、石丸先生は「考え方と工夫次第で老いは『それほどこわくない』、あるいは『案外悪くない』かもしれません」(五頁)と述べています。私はこの本を読んで、むしろ「老い」をこわく思ってもよいのだと安心しました。「老い」はなぜこわいのか、その原因を突き止め、その対策をみんなで解決していく方法を示しているからです。
序章では、老いと祝福はどんな関係があるのかをひもときつつ、問題提起をします。「古来、どこの文化圏でも長寿は祝福の象徴でした。……平均寿命が劇的に延伸して世界でも一、二の長寿国になった日本は、まことに祝福の満ちた国であり、そこに住む私たちも長寿の命をひたすら喜んでいられるはずです。けれども今『老いと祝福』というテーマを掲げる背景には、老いの日々が実際には苦しいものであり、私たちがそれを素直に喜んでばかりいられないという実情があります……『老いの困難の中にいかに祝福を見いだすか』」。
「祝福とは何か」は著者自身の課題でもあり、このように本書の隨所で問いかけられています。人間が生きていくためにいちばん大切なもの、すなわち神との関係は「祝福」をまず理解しないと始まらないという著者の意気込みが感じられます。
こうした序章から始まる本書は、「今日の老いの現実」「『老い』を見直す世界の流れ」「老いの日々を健やかに」「聖書の教えと親の背中」と、四部構成で、それぞれ「老い」をいろいろな角度から捉えています。印象に残ったのは、「老い」(老化)を見直す発想の転換です。「エイジング」およびその訳語である「加齢」という言葉によって、「老い」をより大きな視点から考えることができます(七六頁)。「加齢の効用」(一二一頁)では、老いの長所が精神科医の知見から具体的に述べられていて、励まされます。
高齢になると何といっても、親しい人との死別を多く体験します。私はつい最近それを体験し、つらい思いから抜け出せないでいました。しかし、大事な存在のイメージが心の中にしっかり保たれていることを「対象恒常性」と呼び、その確立によって「慕わしい相手は確かに存在している」との感覚を持ち、内なるイメージと対話できるのだと知りました(一九七頁)。ここを読んでつらさを乗り越えることができたのです。これは大きな収穫でした。
この本を読み終えたときに、「老い」も「死」も受容でき、「老いと祝福」は「神共にいます」という意味であることがわかりました。そして「祝福」をいただいた者は祝福を伝える者としての務めがあることも教えられました。
疋田勝子
ひきた・かつこ=日本キリスト教団本庄教会協力牧師