小川修パウロ書簡 講義録7 ガラテヤ書講義Ⅰ

神の〈まこと〉から来るキリスト信仰
〈評者〉廣石 望

 2011年に公刊が始まった『小川修 パウロ書簡講義録』(全十巻)も、本書の後は『ガラテヤ書講義Ⅱ』を残すのみとなった。編者は、小川修氏(1940~2011年)の教え子たちである。講義の録音音声を忠実に文字化するという独特の編集スタイルには、亡き師への深い敬慕の念が溢れている(「あとがき」参照)。
 小川氏が中心に据える「神の<まこと>から人間の<まこと>へ」という解釈原理は、ふつう「信仰」と訳されるギリシア語ピスティスを「まこと」と訳すことで、人の「信仰」に先立つ神の<まこと>を確保する。これは滝沢克己のインマヌエル論の継承であり、パウロのピスティス概念に「神の信実」を含める立場は古くはカール・バルト、現代新約学では太田修司氏その他の賛同者がいる。
 パウロが召命体験を述べる件は、「母の胎内にある時からわたしを聖別し、み恵みをもってわたしをお呼び(お召し)になっていた方が、異邦人の間に宣べ伝えさせるために、わたしの中において・わたしの中なる御子を啓示することをよしとしたもうた」(ガラ一・15~16)と訳される。先行する神の「聖別」と「召し」が第一のピスティスないし「イエス・キリストの<まこと>」である一方で、「わたしの中に御子がいる」という認識の成立、つまりダマスコ体験が第二のピスティスである(35頁以下)。人の信心は、神の救いの現実への応答なのである。このつながりは「第一」と「第二の義認」とも言われ、前者(選びと召し)は万人に妥当する原事実である(101頁他)。
 したがって「生きているのは、もはやわたしではない。キリストが、わたしのうちに生きておられる」(ガラ2・20)という発言も、信仰者とは、「キリストの<まこと>」から「我が内なるキリスト」への転換を経た「わたしでないわたし」であるという消息を伝える(109頁以下)。
 同じことはアブラハムにも当てはまる。「(聖書に)アブラハムは『神を信じた。それ(=アブラハムの信仰・彼の内なるキリストcf.V16)が彼には義と認められた(=第二の義認)』とある〔中略〕。他方聖書は、神が諸国民を<まこと>により義とされていること(第一のピスティス〔中
略〕)を、あらかじめ知っていて、(この原福音を)アブラハムに対し、『万(よろず)の国民(くにたみ)、汝によりて〔中略〕祝福せられん』〔中略〕と予告(=約束)したのである」(ガラ3・6と8)と言われるとき、アブラハムに向けられる「汝によりて」は、彼の内なる「キリストにあって」の意である(208頁以下他)。キリストの<まこと>は、神と人を─時を超えて─相互に媒介する。
 それゆえ、重いしょうがいを抱えてキリスト者として生きた座古愛子さん(1878~1945年)の姿もまた「その十字架の、十字架のすぐ裏っ側にこの復活がある」ことを教えてくれる(206頁)。私たちにとっても「十字架が復活」なのである(107頁以下他)。
 宗教哲学者としての小川氏の面目躍如たる解釈である。評者に残る問いのひとつは、死せるイエスの起こし(復活)という神の行為の歴史的な個別性と、新しい世界の出現という終末論的な位相を、神の<まこと>という構想の中にどう位置づけるかである。

小川修パウロ書簡
講義録7
ガラテヤ書講義Ⅰ

小川 修著
A5判・302頁・定価3300円・リトン
教文館Amazon書店一覧

書き手
廣石望

ひろいし・のぞむ=立教大学教授

関連記事

  1. 聖書とモンゴル 翻訳文化論の新たな地平へ

  2. ロバート・キエサ 訳・注解/髙祖敏明、梶山義夫 翻訳協力 [羅和対訳]イエズス会の規範となる学習体系(一五九九年版)(川村信三)

  3. 金子晴勇著 「良心」の天路歴程(斎藤佑史)

  4. 関野和寛著 ひとりで死なせはしない(石丸昌彦)

  5. イースターへの旅路  レントからイースターへ

  6. 牧師の読み解く般若心経

書店に問い合わせる

  • 060-0807 北海道札幌市北区北七条西6丁目 北海道クリスチャンセンター内
  • ☎ 011-737-1721
  • FAX 011-747-5979
  • HP  http://www.jb-shop.com

  • 980-0012 宮城県仙台市青葉区錦町1-13-6エマオビル1階
  • ☎ 022-223-2736
  • FAX 022-302-6678
  • 260-0021 千葉県千葉市中央区新宿2-8-2 千葉クリスチャンセンタービル2F
  • ☎ 043-238-1224
  • FAX 043-247-3072
  • HP http://keisen.christian.jp
  • 169-0051 東京都新宿区西早稲田2-3-18 アバコビル2F
  • ☎ 03-3203-4121
  • FAX 03-3203-4186
  • HP http://www.avaco.info
  • 104-0061 東京都中央区銀座4-5-1
  • ☎ 03-3567-1995
  • FAX 03-3567-4435
  • HP https://biblehouse.jp
  • TEL:03-3260-5663
  • FAX:03-3260-5637
  • 162-0814 東京都新宿区新小川町9-1
  • 951-8114 新潟県新潟市中央区営所通一番町313
  • ☎ 025-229-0656
  • FAX 025-229-0656
  • 530-0013 大阪府大阪市北区茶屋町2-30 日本聖公会大阪聖パウロ教会1階
  • ☎ 06-6377-6026
  • FAX 06-6377-6027
  • HP http://osakacbs.web.fc2.com
  • 650-0021 兵庫県神戸市中央区三宮町3-9-18 三陽ビル2F
  • ☎ 078-331-7569
  • FAX 078-945-9388
  • 730-0841 広島県広島市中区舟入町12-7 広島バプテスト教会 教育館一階
  • ☎ 082-208-0022
  • FAX 082-208-0177
  • 779-1105 徳島県阿南市羽ノ浦町古庄大道ノ西13
  • ☎ 090-8694-4986
  • FAX 050-3142-3017
  • 790-0804 愛媛県松山市中一万町1-23
  • ☎ 089-921-5519
  • FAX 089-921-5413
  • 810-0073 福岡県福岡市中央区舞鶴2-7-7 九州キリスト教会館1F
  • ☎ 092-712-6123
  • FAX 092-781-5484
  • HP http://www.sinseikan.jp/
  • 802-0022 福岡県北九州市小倉北区上富野5-2-18 富野教会内
  • ☎ 093-967-0321
  • FAX 093-967-0321
Loading...

分類