【特集】「金と神」について考えるなら▼この三冊!


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 「俗世の金(カネ)と聖なる神を並べるとは、いったい何ごとか?」と眉をひそめる信仰者もいるかもしれない。イエスは「神と富(マモン)という二人の主人に仕えることはできない」(マタイ6・24)と言って、両者をきっぱり区別したではないかと。実際、キリスト教は「聖か俗か」、「教会か社会か」、「宗教か経済か」といった二元論的な考え方を長らく固守してきたように思う。
 とはいえ、金銭と信仰は実は決して無関係ではなく、古代から複雑にからまり合っていた。このことは、聖書に登場するさまざまな重要概念から容易に想像できる。例えば「罪」は「借金」や「負債」を意味する。「罪の赦し」はそれらの帳消しを意味する。「信仰(クレードー)」は「信頼(クレジット)」の類義語である。この他にも数多くの例がある。
 やがて金銭の使用が広まり、複雑なものになるにつれて、それは伝統宗教の支配をのがれて、独立した社会現象となっていった。とりわけ近代以降、経済と信仰は別々の領域と見なされるようになった。
 その一方で、今日の資本主義経済は、地上のありとあらゆるものを商品化し、それ自体があたかも巨大な「宗教」のごとき様相を呈しているのではないだろうか。たとえそれが、ますます多くの人々を中間層から貧困層におとしめ、ますます少数の超富裕層にマネー、情報、政治権力を集中させようと、たとえそれが─「エコ」や「クリーン」を巧妙に装いつつ─どれほどの地球生態系の破壊をもたらそうと、「資本主義経済にとって代わるようなシステムはない」という通念、信条が人々のあいだに今なお根強く残っている。


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『中世の高利貸』
・J・ル・ゴフ:著
・渡辺香根夫:訳
・法政大学出版局
・1989 年
・四六判178 頁
・税込2530 円

 その意味では、資本主義こそ現代の最強最大の偶像崇拝(物神崇拝=フェティシズム)だと言えるだろう。偶像崇拝とは、人間がみずからの手でつくったものに命をささげて、死に至ることである。ここに、経済と宗教、資本主義とキリスト教の関係を改めて問わねばならない差し迫った理由がある。
 そのような関心に基づいて、経済と宗教の関係を論じた名著を三冊選んで紹介したい。ジャック・ル・ゴフ著『中世の高利貸─金も命も』(法政大学出版局)、リチャード・トーニー著『宗教と資本主義の興隆─歴史的研究』(岩波文庫)、デヴィッド・グレーバー著『負債論─貨幣と暴力の5000年』(以文社)の三冊である。
 これらの書物を手がかりとするならば、資本主義とキリスト教は、はじめに対立(相反)し、やがて共存(妥協)し、ついに分離する(力関係が逆転する)という三つの段階を経てきたように思われる。さらにグレーバーの『負債論』は第四の段階、つまり今後の展望を指し示しているように思われる。以下でそのことを明らかにしたい。

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『宗教と資本主義の興隆』(上下巻)
・トーニー:著
・出口勇蔵、越智武臣:訳
・岩波文庫
・1956 年(上巻)、1959 年(下巻)
・文庫判276 頁(上巻)、348 頁(下巻)
・税込924 円(上巻)、1067 円(下巻)

 古代世界において、どんなモノとも交換できるカネが作られた。人々がモノよりもカネを欲し始めた瞬間、そこに「資本」が胚胎する。資本とは、カネが「利子」という「子供」を産んで増殖することである。利子とは金貸しがカネを「与える以上に受け取る」ことである。ゴフによれば、高利貸しこそまさしく資本主義の先駆者である。
 古代社会は概して、利子をとることは不自然かつ不正であり、神や隣人に対して盗みを働くことだと考えた。例えばキリスト教会は、聖書(出エジプト記22・24など)に基づいて高利貸しを禁じた。中世の教会は商業活動を取り締まる審判者となった。教会は自給的な国家を理想としつつ、そこからはみ出して私利を追求する商人や金貸しを批判し、規制し続けた。
 だがその一方で、トーニーやグレーバーの指摘によれば、聖職者階級は最大の金銀財宝を所有する金融組織でもあるという、決定的な自己矛盾を抱えていた。聖職者の贅沢や搾取に対して批判が起きると、教会はそのような批判者たちを異端視して弾圧した。あるいは教会の支配を脅かさない範囲内で、異端を取りこんだ。

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『負債論』
貨幣と暴力の5000年

・デヴィッド・グレーバー:著
・酒井隆史:監訳
・高祖岩三郎、佐々木夏子:訳
・以文社
・2016 年
・A5 判848 頁
・税込6600円

 やがて商品経済が拡大し、金貸し業を禁じきれなくなると、教会は徐々にそれを容認していった。ゴフが注目するのは、教会がその際「煉獄《れんごく》」を創案したということである。貪欲の罪を洗い清める煉獄は、「この世では金が欲しい。あの世では永遠の命も欲しい」─マモンと神という二人の主人に仕えたい─という高利貸しの願いをかなえて、金融業のさらなる発展に道を備えることになった。
 トーニー著『宗教と資本主義の興隆』は、その後の歴史(宗教改革、清教徒革命、産業革命)をさらにたどっていく。それは、教会の支配下にあった商業や金融が徐々に自立し、遂には教会がそれらに追従するに至る、逆転の歴史である。
 まずルターは、「福音」に基づく神の国と「剣」に基づく世俗の国とを区別したが、それは彼自身の意図を超えた仕方で、現世的な商業の活性化へと道をひらくことになった。これに続いて起きるのが、カルヴァン派や清教徒による商業のさらなる活性化、金融市場や私有財産権の発達、自然法の非神話化─「自然」は神の命令ではなく、人間の欲望を意味するようになった─といった一連の出来事である。個々人の利潤追求は承認され、推進され、宗教的な意味づけや統制から独立していった。

 このような社会変動の中で、西欧キリスト教の主流派は、政治・経済・社会の構造的問題に取り組むよりも、むしろ個人の魂の救済へと特化していった。またこの時期、西欧キリスト教諸国が侵略によって世界市場を拡大していった際、アフリカの奴隷、アメリカの先住民、インドの手工業者などは、教会の主流派が説く「隣人愛」の圏外におかれた。さらに産業革命はキリスト教会にとっては新しすぎて、その本質を解明することもないまま、賃労働者は過酷な取り締まりを受けた。トーニーは特にイギリスに重点を置きつつ、以上のような歴史を克明に叙述している。
 かくして近現代の資本主義は、キリスト教の影響を離脱しながら、それ自体が一種の「宗教」的な特徴を帯びるようになった。それはグローバルに遍在し、人々に安定を約束する一方で、負債(罪)を負わせ、返済を要求し続ける最高権威と化している。
 その意味でグレーバーの『負債論』は、キリスト教にとって特別に興味深く示唆に富んでいる。負債論とは「罪論」であると言ってよい。彼の叙述から、貨幣経済によって人間の共同体や相互扶助が分断され、解体され、人々が罪人(債務者)となって抑圧され支配されてきた長大な歴史が浮かび上がる。
 人類が硬貨の鋳造を始めたのは、紀元前千年紀の半ばごろである。国家は貨幣によって常備軍を養いながら、統一的な国内市場を形成した。膨大な数の人間が奴隷となって、多くの金銀銅を産出した。グレーバーはそれを「軍事=鋳貨=奴隷複合体」と呼ぶ。
 このような状況下で、暴力的かつ冷笑的な支配者たちと対決し、新しい倫理を見出そうとする思想家や宗教者たちが各地で現れた。それは侵略的戦争を拒絶する平和運動であり、人々の債務を帳消しにし、土地を再分配し、新たな「解放空間」を創造しようとする運動だった。旧約の預言者たち、そしてその伝統を引き継ぐナザレのイエスもまた、このような世界的な対抗運動の一部分だった。
 キリスト教がそのような出発点から遠ざかって久しい。けれどもこの三冊によれば、罪とは単に個人的・精神的なものだけではなく、社会的・構造的な産物である。さらに罪の赦しの福音は、単に個人的・精神的な慰めだけではなく、社会的・経済的・政治的な変革へと通じるはずである。「福音=罪の赦し(債務奴隷からの解放)=安息の成就」(ルカ4・16以下を参照)という壮大なメッセージは、今やキリスト教の従来の枠組みや因習を超えたスケールで、つまり他宗教者や非宗教者によっても見出され、生かされつつ、グローバル資本主義という名の「罪人製造工場」にたいして、根底から対決することになるだろう。


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書き手
福嶋揚

ふくしま・よう:神学・倫理学者

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