広大な「聖書の森」を貫く道、「神と共に生きる」で提示
〈評者〉鎌野善三
親しい間柄の長田先生の著書を読ませていただきました。一読して、聖書の中心的メッセージがよくわかりました。あの分厚い聖書を、よくもまあ、128頁の小さな本にまとめられたものだと、驚いたことです。広大な「聖書の森」を貫く一本の細い道が分かりやすく記されています。信仰歴の長い方は「なるほど、聖書全体がつながっているのだ」と膝をたたき、教会に来て間もない方は「この道にそって聖書を読めば難しくない」と安心されるに違いありません。
「聖書の基本がわかる十七話」という副題でわかるように、旧約聖書から四話、福音書から八話、使徒の働きから二話、書簡から二話、そして黙示録からの一話で完結します。これらはすべて、「神と共に生きる」というテーマで貫かれています。この十七話をできるだけ短くまとめてみましょう。
神が人間を創造されたのは、彼らが「神と共に生きる」ためだった。十戒は「神と共に生きる」ためのガイドラインだったが、人間はこれを守らなかった。そんな人間を回復させるために、神は「不思議な男の子」と預言されたお方を地上に遣わされた(以上旧約聖書)。
この方こそ、「ひとり子の神」なるイエスであり、人間と共に生きたいという神の願いを実現される方だった。この方は、「私たちを愛し、私たちと共にありたい、私たちにご自分を現したいと願っておられる」(43頁)。この方の愛にとどまるなら、私たちの生涯は豊かな実を結ぶことになる。福音書はこの方のことばと行いを記録し、特にその十字架と復活によって罪の贖いが完成したことを宣言する。昇天によって肉眼では主を見ることができなくなったが、「世の終わりまで、いつもあなたがたとともにいます」という約束が残された(以上福音書)。
その約束の成就として聖霊が与えられ、神に対する悔い改めと主イエスに対する信仰を告白するなら、だれでも神と共に生きる新しい生涯を始めることができる(以上使徒の働き)。これらの人々の集まりが教会であり、「他の信仰者と共に生きていく」(107頁)ことによってキリストのからだが形成され、神の臨在が現される「神の御住まい」となる。神との隔てなき交わりと信者同士の交わりによって、光の中を歩む日々が実現する(以上書簡)。やがてキリストが再び来られるとき、「神は人々とともに住み、人々は神の民となる」新しい天と地とが出現し、神のご計画は完成する(以上黙示録)。
聖書の森には何千本という木々が茂っており、どの木にも深い意味があるのですが、そこには深入りせず、「神と共に生きる」という一本道をたどっていく著者の意図は明確です。「できるだけ分かりやすく、しかし、できるだけ聖書の内容をありのままにお伝えしたい」(4頁)という願いは見事に実現しています。
最後に、著者の人となりが表れている三つの点を記してみましょう。
1 純粋な信仰 著者は牧師家庭に生まれ、幼いころから両親や教会員の祈りに支えられて成長してきました。そのことが、聖書全体を「神のことば」と受けとめる純粋な信仰を養ってきたのでしょう。「神と共に生きる」ことが、著者の生活に表れているように思われます。
2 分かりやすい例話 難しい話はあえて持ち出さないで、新島襄の言葉、ゴーギャンの絵、映画『十戒』、水野源三の詩などの親しみやすい例話によって、聖書の真理を説明しています。できるだけ分かりやすくしようとする著者の気持ちが伝わります。
3 実際の経験 財布を忘れたこと、救いの証し、教会学校の生徒の話など、自分が経験したことを通して、現実に働いておられる神さまのみわざを描いています。教会に来て間もない方々にもきっと分かりやすいことでしょう。
鎌野善三
かまの・よしみ=西宮聖愛教会牧師