「神の王国」を求めて 近代以降の研究史

福音に生き実行していくために
〈評者〉坂野慧吉

「神の王国」を求めて
近代以降の研究史

山口希生著
四六判・256頁・本体1700円+ 税・ヨベル
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「時が満ち、神の国が近づいた。悔い改めて福音を信じなさい。」(マルコ1章15節)
 私は、「このみことばは、分かっている」と思っていた。でも、この本を読んで、「自分は良く分かっていなかった」と思った。この本を読むことによって「神の王国」がイエスの福音の中心なのだと納得させられました。
 第Ⅰ部で著者は、イエスが語った良き知らせ、福音を一言で要約すれば、「神の王国の到来」と語っています。そしてこの本のテーマと構成を最初に提示しています。「神の王国はどのように地上に実現するのか、という問いは非常に重大な今日的意味を帯びています」と研究者だけではなく、教会と私たちにとっても重大な問題なのだと言います。
 第Ⅱ部では「神の王国」に取り組んだ古典的研究を紹介しています。一九世紀の「神の王国」論争、「神の王国」=「神の支配」さらに、イエスは終末的預言者であったと主張するアルベルト・シュヴァイツァー。そしてブルトマン、クルマンの主張をまとめています。第Ⅲ部では「神の王国」とイスラエルの刷新というテーマで、C・H・ドッドをはじめとする研究者たちを紹介しています。特に12章では「捕囚の終わりと神の王国」という題で、N・T・ライトを取り上げ、彼が「四福音書を旧約聖書のストーリーのクライマックス」として読むことを提唱していると紹介します。「捕囚はいつ終わるのか」という興味深い問題も取り上げています。第Ⅳ部「神の王国のすがた」では「神の王国と教会」「神の王国と黙示文学」「神の王国と知恵文学」「神の王国と社会学」など神の王国に関わる多方面の問題が紹介されます。第Ⅴ部では、「神の王国と万物の刷新」というテーマで、N・T・ライト「神の王国」とパウロ書簡、モーフィット「神の王国とヘブライ人への手紙」、リチャード・ボウカム「神の王国」とヨハネ黙示録を解説します。万物の刷新というテーマは、この本のクライマックスだと思われます。
 今、世界で、そして日本で多くの牧師、信徒に読まれているN・T・ライトが二回登場します。この本を学ぶことによって、ライトがどうして「神の王国」を論じているのか、どういう立場なのか、そして現在の教会に何を語ろうとしているのかを知ることができます。突然ライトが登場したわけではなく、「神の王国」研究史の中で位置づけられることによって、健全な読み方ができるのではないかと思います。ライトの主張に賛同している人も、疑問を感じている人も、「歴史」を踏まえることによって、建設的な議論ができるのではないでしょうか。著者の理解に賛成するか、反対するかは、この本をしっかり読んでからにしてほしい、と思います。
 いずれの立場を取るにせよ、「日本の教会」が今、「神の国(王国)の福音」とは何かを真剣に学び、「イエス・キリストの福音」とは何なのか、なぜイエスは十字架に架かられたのかをもう一度学ぶことにより、刷新されて福音に生き、福音を宣教し、福音によって世を改革して行く使命を新たに自覚し、実行して行くために、「一石を投じた」書物と言えるのではないでしょうか。

書き手
坂野慧吉

さかの・けいきち= 浦和福音自由教会協力牧師

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