大災害はなくならない だから神学を続ける
〈評者〉正木牧人
大災害の神学
東日本大震災国際神学シンポジウム講演録
アリスター・E・マクグラス、菊地 功、吉田 隆、森島 豊、朝岡 勝、ジェフリー・メンセンディーク共著
藤原淳賀編
A5判・148頁・定価1980円・キリスト新聞社
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二〇一一年三月一一日、東日本大震災の日である。その日から日本の教会は災害を神学した。いや、関西地方では既に阪神淡路大震災の一九九五年一月一七日から災害の神学が始まっていた。おそらく各地方に災害の神学が始まった日があるのだろう。しかしいつしか次の課題に関心が移り、継続的取り組みは表面的なものになっていた。
二〇一二年に第一回東日本大震災国際神学シンポジウムが始まった。震災後すぐに受けた米国のフラー神学校からの支援の申し出に、まだ泥かきの人手が足りないときではあったが、主催者は震災を対話の中で神学する必要性を見抜いていた。それは、どのように聖書的に震災を理解したらいいのか、専門用語ではなく教会に届く言葉で捉えて語る必要であり、知的、情緒的、霊的に、全人で受け止める被災の意味と理解、そしてそこから始まる再起の物語を支える神学的対話の必要であった。続けることは難しい。各地でも三年、五年と継続する学びの会はあった。しかし見よ、この国際シンポジウムは一一年にわたり継続され奥行きと広がりを増してきた。対話の輪が従来の壁を越えて広がり、世代をまたいで浸透した。聖学院大学総合研究所、東京基督教大学、DRCnet(災害救援キリスト者連絡会)の主催で始まり、第三回からは関西でも縮小開催がかなった。今回も関西ミッションリサーチセンターを共催者に加えてくださっている。そのように継続することで、日本の教会が被災と再起の体験を通して教えられた価値あることを、国際社会に発信することができたのである。
二〇二二年二月に第七回セミナーが開催された。本書『大災害の神学』はその記録である。
講演者のひとり、オックスフォード大学教授のアリスター・E・マクグラス氏は大災害を文化的、知的、霊的にとらえるヒントを語った。残念ながらこれからも人類は自然災害を避けることはできない。概念的な理想社会を夢見る啓蒙主義が普及する一八世紀までは、人には本来的に人生の苦しみが存在することが前提となっていた。クリスチャンには悲しみの中で「十字架の勝利」を信じる「意味の枠組み」がある。それは悲しみから立ち直る抵抗力というだけでなく、その経験から更に人生の新しい意味を再構築できる「外傷後成長」があることを語っている。本講演は本書三五頁にあるQRコードから視聴が可能である。
本書の内容は多彩である。カトリック教会や支援団体「東北ヘルプ」の震災支援の具体的取り組みの例が紹介され、旧約神学から苦難に対する検討があり、青年に向けたことばがある。そして主催者の中心人物のおひとりであり、編者の藤原敦賀氏の特別寄稿論文には「大災害の神学」の定義がなされている。「大災害の神学」とは、「この世の始まりにおける神の祝福と、終末において完成させられる天の御国の美しさを思いながら、神の愛のうちに救い主イエス・キリストが開かれた救いの道を歩みつつ、この地上において他の人々と神の御心を求める神学的営みと実践である」(一三一頁)と編者は語る。本書には繰り返して読みたい論考が凝縮されている。これまでもたれた全シンポジウムの講演はすべて入手できるので興味のある方は五頁脚注を参照されたい。
正木牧人
まさき・まきと=AGST/J校長、神戸ルーテル神学校教授