崔炳一 著 植村正久と日本の教会(岡部一興)

教会形成に生涯を献げた植村正久
〈評者〉岡部一興


植村正久と日本の教会
現代日本を植村正久と語る

崔 炳一著
A5判・272頁・定価3300円・一麦出版社

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 この書は、二〇二五年の植村正久没後百年を記念して出版され、植村神学の現代的意義を述べたものである。植村正久を扱った書物は数多くある。五十嵐喜和牧師は、植村を「日本を代表するキリスト教界の巨人」と言った。旧日本基督教会において多方面に亘って活躍しリーダーシップを発揮した伝道者である。旗本一五〇〇石の植村家の長男として生まれ、徳川幕府崩壊に伴って貧困を極め、糊口を凌ぐため豚飼いをした。植村がバラ塾の門を叩いたのは十五歳に満たぬ年齢で、横浜バンドの中で最年少であった。その回心は「武士的精神」である儒教的な神概念であり、陽明学とキリスト教とのある種の連続性が認められた。

 この書では植村の活動を三期に分けている。第一期は一八五八年誕生から一八八四年。第二期は一八八四年から一八九七年。第三期は一八九八年から一九二五年。一八六八年一家をあげて横浜に移転。七二年J・H・バラの私塾に移り、翌年受洗、ブラウン塾に入りキリスト教神学を学ぶ。七七年東京一致神学校に入学、翌年教師試補になり東京下谷で開拓伝道を行い、八二年山内季野と結婚。第二期では一八八四年に『真理一斑』、翌年『福音道志流部』を刊行。八七年には富士見町教会を設立、日本基督一致教会と組合教会との合同の委員になるが決裂、日本基督教会と改称。『日本評論』『福音週報』を創刊、九二年内村鑑三不敬事件で本多庸一、押川方義と声明文を出すが、『福音週報』が発行停止、『福音新報』を創刊し独自の道を切り開く。第三期では信州、神戸、高知の教会を応援、名古屋、大阪、熊本等を巡回。一九〇一年海老名弾正とのキリスト論論争でその名を高め、明治学院神学部の教授を辞め、一九〇四年東京神学社を設立。一九一二年日本基督教会設立五〇周年を迎え、朝鮮と台湾の伝道に目を向け、日本基督教会の中核的存在となっていく。しかし、一九二三年関東大震災によって富士見町教会と東京神学社が焼失、その再建に当たるが、一九二五年一月八日、その途上で逝去。
 内容的には、第一章抵抗思想としての礼拝論、第二章アジア思想と歴史的和解、第三章文学論、第四章宣教論とキリスト教教育、第五章植村の信教の自由とキリスト教。植村の神学的営みは、キリスト論を中心とした神学の独立と国家からの独立にあり、欧米の教派的傾向の強いキリスト教ではなく、キリストの贖罪を神学的な根拠とした独立的国民的教会の形成を目指した。日清・日露戦争に対しては、日本が一等国という認識から戦争を肯定する立場を取り、植民地政策を支持した。植村は政治、社会、教育、宗教に至る幅広い評論活動を行い、また文学を語り英文学を紹介、讃美歌の編纂等に貢献。注目すべきことは、五〇〇近い注の多さであり圧倒されたが、植村を中心として起こした田村直臣の教職剥奪、即ち『日本の花嫁』事件についても、紙幅の関係もあろうがふれてほしかった。著者は、現在の日本が抱える少子・高齢化、教会員の減少という問題を植村の宣教論の学びを通して新たな地平を切り開きたいという意識から植村の宣教論を捉えようとしている。本書は、植村の神学と思想を深く掘り下げることによって、現代の教会に生かそうとする試みが表れた力作である。従来の植村研究を越えて多面的に捉えようとする試みがあり、貴重な資料がちりばめられていて参考になる。

書き手
岡部一興

おかべ・かずおき=弘前学院大学客員教授

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