教会宣教と神学の切り結びをめざして
〈評者〉宮本 新
ルーテル学院(ルーテル学院大学/日本ルーテル神学校)の附属機関であるルター研究所(江口再起所長)は今年で開設四〇周年を迎える。第一九巻はこの節目の年に刊行された研究紀要である。研究所は設立当初から大学・神学校を基盤にしたところに特色がある。「神学者ルター」と「教会人(信仰者)ルター」という二つのアプローチを併せもっていたことになる。
このことは研究所の活動も特徴づけてきた。一方で、日本語でルターの人と思想をより深く理解するために著作集の刊行事業をはじめ、ルターその人のテキストにあたり歴史研究に向かう道筋が切り開かれてきた。他方で、それがこんにちの教会と宣教にどのような関係と意義があるのか、課題を含めて研究が重ねられてきた。これまで開催されてきたおびただしい研究会やセミナー、公開講座などもこの線上にある。振り返るとこれら諸活動に今よりもずっと多くの人たちがかかわり参加し、また熱気があった時代である。このことは個別の研究所や教会にかぎらず、広く国内外のキリスト教界の潮流と合致する。第一九巻の諸論稿は、それぞれの論者の研究成果と同時に、より大きな潮目を反映しているため、ルター研究の枠を超えて、さまざまな読み方と相互理解の進展に開かれている。紙面の都合上、個別の論評にまで及ばないが、目次を一瞥するだけでも示唆するところを汲んでいただけるはずである。
冒頭には二〇二三年に相次いで召天された徳善義和初代所長とつづく鈴木浩所長の「経歴と業績」とエッセイを掲載している。その他の掲載論文は以下のとおりである。
・トマーシュ・ハリク氏「キリスト教は新たな改革期の戸口に立っている─ルーテル世界連盟第13回総会基調講演」全文訳および解説「ハリク氏とキリスト教の未来」宮本新/・「ルターの聖餐論と今日の課題─ルターに聞き、ルターを問う」立山忠浩/・「隠れたる神の目に立つ─ルターとハイデガー」江口再起/・「新しい歌を始めよう─ルターの賛美歌誕生をめぐって」伊藤節彦/・「すべての神学は文脈を持つ─『神論』としての神の痛みの神学」宮本新/・「旧約聖書からの説教と宣教─RCLの第一日課をめぐって」後藤由紀
神学と教会宣教との関係は一筋縄なものではなく分け入るならば、話者がそれぞれをなにをどう理解しているかによって、またその人がキリスト教信仰にどう向き合っているかによって、その内容も論調も変わってくる。しかし現代神学を考える際に新たな局面も現れているように感じられる。教会なるものが神学において批判的に取り上げられることは当然でありまた健全と思われていたころから、教会の実体が弱まり、宣教が低迷する流れと、学術としての神学が専門化・細分化していく方向性があわさると、意義深い緊張関係というよりも、むしろ互いの関心の領域が別のところに向かい、もはや切り結びも衝突もない無関係な原野が広がっているという印象である。基本的な問いは、古典的であれ現代的であれ、教会という文脈の消失についてである。教会抜きの神学あるいは神学抜きの教会が一体どの程度まで可能なのか。ルター研究所に通底する研究課題であり、第19巻の諸論考はいずれもがそれを反映し、次の神学と宣教の展開を探求する試みにもなっているとも言えるだろう。













