「その時」に備える教会や家庭での学びのために
〈評者〉吉岡恵生
関西学院大学神学部ブックレット16
キリスト教の看取り・送り
第五七回神学セミナー
関西学院大学神学部編
A5判・102頁・定価1650円・キリスト新聞社
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関西学院大学神学部は、毎年二月に「神学セミナー」を開催している。このセミナーの目的は、神学や教会が対峙している現代の諸問題について、神学者や牧師、またそれらの諸問題に関わる専門家らが共に対話をしつつ神学することである。
第四二回神学セミナー以降、毎回の講演や礼拝は収録され『関西学院大学神学部ブックレット』として出版されてきた。シリーズ16冊目となる本書は、二〇二三年二月二〇日に「キリスト教の看取り・送り」をテーマにとして開催された、第五七回神学セミナーを収録したものである。
毎年このブックレットを読むたびに、時宜を得たテーマ設定や、登壇者それぞれの生きた声に、神学の躍動のようなものを感じている。本書の冒頭にも書かれていることであるが、現代は「『the神学』というものが崩れ去った時代」である。急速に変化する時代の中で、これまでの常識や正しさが問われる時代を迎えている。デジタルの世界では絶えずアップデートが求められるが、神学や教会にもアップデートは必要である。もちろん、何でも時代に迎合して変化させれば良いというのではない。守るべきものがあり、変えてはならないものもあるだろう。しかし、もしその変わらざるものが、単に慣習として形骸化し、本来の目的を果たせない存在になっていく時、それはもはや、神学や教会の躍動を妨げる重石でしかなくなってしまうのである。本書には、その重石を動かそうと果敢に挑む、「現場」を知る人々の生の声が響いている。
主題講演者として登壇した中道基夫氏(関西学院院長・関西学院大学神学部教授)は、看取りや葬送に関する現代の傾向を分析しつつ、「個人化、多様化、小型化、単身化、オンライン化、格差拡大等」をキーワードとして掲げている。かつて人の死は、家族や地域といった共同体の中で起こり、人の死がもたらす悲しみもまた、共同体の中で受け止められていた。宗教もまたその共同体の一部として重要な役割を果たし、特に葬儀においては、なくてはならない存在であることを誰も疑わなかった。しかし今や、その常識は崩壊している。死は個人化され、葬儀も小型化し、無宗教で行われる葬儀も増加している。
中道氏はこのような状況について「葬儀は『弔う』『悼む』『送る』ことから、「処分」へと重点が移りつつあるのではないか」と指摘する。一方、こうした傾向は、死の受容プロセスを丁寧に行うことができないことから、グリーフケアという視点において大いに問題があると言わざるを得ない。中道氏はこの問題と向き合うために、「周産期ケア」から着想を得た「周死期ケア」という新たな言葉を提唱し、死を迎える人と死別を経験する人に対するケアの必要性を語っている。そして、「周死期ケア」においては、牧師や教会が重要な役割を果たすことができるとして、その役割と存在意義について再認識させられる提言が続く。
本書にはまた、中道氏の提言に呼応するように、教会や病院で働く牧師、さらには葬儀社で働く葬儀士などから、現場での葛藤や挑戦について、様々な事例が挙げられながら紹介されている。牧師はもちろんのこと、「その時」に備える教会や家庭での学びのためにも、本書は大いに参考になる一書である。
吉岡恵生
よしおか・やすたか=日本基督教団高槻日吉台教会牧師