博士論文作成に本腰を入れはじめた頃、マーク・R・マリンズ(Mark R. Mullins)先生(当時上智大学)のご著書Christianity Made in Japan単訳のお話をご紹介いただいた。日本のキリスト教土着運動に関する本格的な研究書で、不安はあったが、翻訳出版企画者の奥山倫明先生(南山大学)、ご紹介者で博論指導教授の宮永國子先生(当時国際基督教大学)の励ましを受けてお引き受けすることにした。
草稿をまとめ、専門用語やキリスト教事情に関する奥山先生のご指導もいただいて、宗教関連出版の経験豊富な気鋭編集者中嶋廣氏が新たな出版・流通を目指して工藤秀之氏と創業した出版社トランスビューに入稿した。しかしその時、スタッフ2名の同社に今もロングセラーを続けるヒット作が生まれ、対応に追われて編集作業はストップ。ゲラ作成まで長期待機を余儀なくされた。しかし無駄かに思えたその期間は天の配剤だった。
待機中放っておいた訳文を、編集再開後他人の目で読み直すことができたからだ。そこで沸きあがったのは、著者の意図をこの翻訳は伝えているのかという疑問と不安だった。英文和訳として間違いではないのだが、でも何か違う。見直し確認用だったはずの初校ゲラ用の原稿は、著者の真意と教えを求める過去の私の果てしない問いかけへと変貌した。
著者と向き合い、周囲の人々をまきこんで交わす対話。博論執筆にとりかかる頃に体験するのでは遅きに失したとしか言いようがないが、これこそが、研究者としての私の本との真の出会いなのかもしれないと、ひとり興奮しながら、中嶋氏と校正の三森曄子氏の鋭い問いかけに助けられつつ校正を重ねた。邦訳『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』は、「横書きを縦書きに変えた翻訳書」は書評しないと噂に聞こえた批評家が、書評をお引き受けくださった。出会いを求めた私の悪戦苦闘のささやかな成果だったのかもしれない。
(たかさき・めぐみ=国際基督教大学アジア文化研究所研究員)
高崎恵
たかさき・めぐみ=国際基督教大学アジア文化研究所研究員