日本を代表する神学者の集大成
〈評者〉神代真砂実
キリスト教教義学 上
近藤勝彦著
A5判・1210頁・定価14300円・教文館
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近藤勝彦先生が『キリスト教教義学』(上巻)を出版されました。日本の神学界にとって画期的な出来事です。一人の著者による書下ろしの教義学ということでは、佐藤敏夫先生の『キリスト教神学概論』(第二版が一九九六年)以来ではないかと思います。しかも、佐藤先生のものが「概論」として圧縮された著作であったのに対して、近藤先生の教義学は上巻だけで一二〇〇頁もあり、組織神学の体系を形成するものとして先に出版された『キリスト教倫理学』と『キリスト教弁証学』を併せた分量を既に超えています。それだけの内容があることは言うまでもありません。
これだけの大著について限られた分量で読者の皆さんにご紹介するというのは無理と言う他ありませんが、ぜひ手にとって頂きたいという願いを込めて、以下にいくつかのことを記します。
まず、これまで私たちは近藤先生自身の教義学的見解について、間接的にしか知りえなかったのですが、この『教義学』の出版により、近藤先生の神学思想に直接に触れられるようになりました。先生は、その最初の論文集である『現代神学との対話』以来、また、その題からも窺われるように、古今東西の神学者たちとの対話を通して思索を深めてこられました。その論文の数々から私たちは多くのことを教えられてはきましたが、「それでは近藤先生のお考えはどうなのか」ということについては、それらの論文で展開されている批評から窺うしかなかったのでした。この『教義学』では、これまでの対話を踏まえながらも、先生の思想・立場が明確に打ち出されています。近藤先生の数々の説教の根底にある神学思想を知ることが可能になったという点からも、この教義学への興味は尽きません。
第二に、これほどまでに著者が自分の立っているところに明確な自覚をもって記した教義学というものは他にないと思われます。例えば、海の向こうでは、現在、アメリカの神学者のK・ソンダーエッガーが三巻物の予定で組織神学を書いていますが(第二巻まで出版されています)、神学的な問題状況については、もちろん意識していますけれども、教会の歴史的状況や自分が継承している信仰についての把握、ましてや伝道の意識などといったものが(あるとしても)表現されているわけではありません。しかし、近藤先生の教義学では、それが体系の中ではっきりと表現されています。それが記された序の部分の三つの章を読むだけでも、この国にいて神学に取り組むことの意義を深く感じ取れるはずです。いや、そればかりか、自分でも神学をしたくなることでしょう。
最後に、当たり前のことながら、これが体系(秩序あるまとまり)であるということの大切さです。昔、ある出版関係の会議の席上、神学の他分野の先生が「今日、体系など不可能である」と言い放たれたのを思い起こします。しかし、一信仰者の信仰がバラバラのものの寄せ集めであるとしたら、どうして健全な信仰生活を営めるでしょうか。
一貫性と明確な筋道を持った信仰を身に着けることに、この教義学は大きな貢献をするものだと思います。
神代真砂実
こうじろ・まさみ=東京神学大学教授[組織神学]