『本のひろば』は、毎月、キリスト教新刊書の批評と紹介を掲載しております。
本購入の参考としてください。
2013年11月号
出会い・本・人
『真珠湾攻撃総隊長の回想淵田美津雄自叙伝』(講談社)との出会い(佐藤順)
エッセイ
東北アジア・キリスト者文学会議開かれる(長濱拓磨)
渡辺善太『聖書論』との出会い(関田寛雄)
本・批評と紹介
- 『斎藤宗次郎・孫佳與子との往復書簡』斎藤宗次郎他著、教文館―(武田清子)
- 『使徒言行録講解―全六巻』榊原康夫著、教文館―(小野静雄)
- 『ローマ帝国とイエス・キリスト』磯部隆著、新教出版社―(梶田由紀子)
- 『主の祈り―講解説教』ヴァルター・リュティ著、新教出版社―(小泉健)
- 『いのちを育むパストラルケア』ジル・マックギルブレイ著、聖公会出版―(上田憲明)
- 『イギリス人の宗教行動』木下智雄著、聖公会出版―(輿石勇)
- 『牧師の書斎のデボーション』溝口捷支著、ヨベル―(深澤健一)
- 『イエス・キリストの生涯』小川国夫著、新教出版社―(木崎さと子)
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編集室から
昼食にリーズナブルな寿司屋に行くことがある。九月になっても暑く、さっぱりしたものが食べたいと思ってしまうのである。あくまでも噂ではあるが、回転寿司などのある店では「代用魚」と言われるネタが使われるのだとか。「マグロ」と称して別種の魚を出したり、「アナゴ」といって別の食材が使われることもあると聞いた。
握り寿司は、見た目ではなかなかわからない。これは本当にブリなのであろうか? と考えて食べる人はあまりいないであろうし、これはエンガワだ、と言われればそう思って食べてしまう。こうした話がどこまで真実かは確認していないが、よくよく考えれば、食品というのは意外と本物と偽物の区別がつかないものであるかもしれない。
しばらく前までは「ビール」はビールでしかなかったが、九〇年代以降は発泡酒というものが登場し、現在では第三のビールというものもある。少し酔っ払ったら、それぞれは必ずしも区別はつかないであろう。少なくとも、一対一で混ぜられたらもうわからない。チョコレートでさえさまざまだ。外国の菓子を売っている輸入食品店に行くと、カカオの割合の量がそれぞれ異なったチョコレートが多く売られている。しばらく前に上野の国立科学博物館でチョコレートに関する企画展を見てきたが、そもそも何をもってして「チョコレート」と定義するかは、まったく恣意的なものにすぎない。何が本質なのか、という問題を考えれば、例えば、以前とある教会の聖餐式でぶどう酒(ぶどう液)ではなく「ファンタのグレープ味」が出されたという話も興味深い。教会の担当者によれば、「ぶどう液」を調達できなかったそうだ。
思えば、何が本物か、何が偽物か、というのは実に難しい問題である。食べ物でさえそうなのだから、思想、学問、芸術、人格などにおいてはなおさらであろう。日々、良い物や優れた物を見て、それらに触れていなければ、良い物を見分ける力は養えない。だが偽物があるからこそ、本物が際立つ。そして、そもそも偽物があるということそれ自体がすなわち何を意味するのかを考えてみることも、大切かもしれない。 (竹下)