母校でもあり、職場でもある学校での、ある日の編集会議のこと、ご退職された先生に「あなたはこの学校をお創りになった宣教師の先生のどなたをご存じ?」と質問されました。私は悪びれることなく「ほとんどどなたも存じません!」と回答しましたが、その時の先生の驚愕に加え、お隣にいらした元同窓会会長の「嘆かわしい…!」というお顔を今でも忘れることはありません。当時学校は、忘れられつつあるカナダの宣教師についての本を編集しようとしていました。このような不心得者の卒業生に宣教師の業績をきちんと伝えることが編集の目標となりました。そうして刊行されたのが『カナダ婦人宣教師物語』(東洋英和女学院、2010年)です。
知識ゼロからスタートした私の本づくりへの参加でしたが、編集のため読み始めた宣教師の先生方の史料は新鮮な発見の宝庫でした。しかし、その「新しい」はずの発見の一つひとつは、自分の中に深く根付いている感覚─おそらく中高生時代に受けた教育によって培われてきたもの─に結びつき、「既知」のものでもあるような、不思議な高揚を覚え仕事に励んだものです。
同時期に、広報の仕事で『アンのゆりかご 村岡花子の生涯』(2008年)を上梓したばかりの東洋英和の上級生である村岡恵理さんを取材する機会がありました。『アンのゆりかご』もまた、東洋英和の歴史史料を徹底的に調査して生まれた評伝です。「在校中はわからなかったけれど、私たち、すばらしい学校に通っていたのね」と語っていらしたのが印象的でした。同書からも多くを学びました。
東洋英和という学校の幸福は、 『カナダ婦人宣教師物語』 や『アンのゆりかご』 という、年史等では語りきれない宣教師の息遣いを伝える書物が与えられたことにあり、私もその恩恵を受けた一人です。この二書によって開かれた扉を通じて、不心得者の卒業生は現在、学校の史料室の業務に励むに至っています。
(まつもと・いくこ=東洋英和女学院法人事務局史料室)
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松本郁子
まつもと・いくこ=東洋英和女学院法人事務局史料室