教会の不思議に出会いながら
〈評者〉菅原力
「教会」の入門書は初心者の方にとってだけ必要なもの、というわけではない。教会にずっと通っている人にとっても、「教会」を知ることは大事なことだ。いや、それは大事以上のことで、どうしても必要なことだ。その理由は、教会の「不思議」によるのである。教会は人間が発議して、人間の手でつくられたものではないからである。
教会は神の働きによるもの、神が主導するもの、生きて働くキリストの体なのだ。それは人間の組織に慣れた者にとっては、「不思議」以外の何物でもない。この「いろは」の「い」はなんどでも立ち返っていく必要がある。しかもそれだけではない。キリストが生きて働くこの体は、そこに召された者たちによって担われ、つくり上げられていく、人間の教会でもある。キリストの教会は、あやまち多く、欠けに満ちたペトロが用いられる教会でもある。この教会の「不思議」に初心者であろうが、長く教会に通う者であろうが、なんどでも出会って驚き続ける必要がある。
『教会をつくる』(古屋治雄編)が出版された。日本キリスト教団出版局の定期月刊雑誌「信徒の友」に掲載されたものと、今回新たに書き下ろされたもの合わせて14編からなる書物である。
この本は三部構成。第一部は「教会の土台」、第二部は「教会生活の喜びと希望」、そして第三部は「教会を担う」である。しかしこれだけでは紹介にもならないので、目次のタイトルだけでも書き記せば、第一部には、「教会の本質」「教会の使命」「教会の役割」「聖礼典」「洗礼」が収録され、第二部には「人生」「新来会者」「賛美」「葬儀」「子どもの信仰告白」が、そして第三部には「祈祷会」「献金」「役員会」「招聘」が掲載されている。
文章は長短があるが、大きくはないサイズの本(四六判)で、短いもので5頁。長いものでも11頁。となれば、一つ一つのテーマを手際よくまとめて簡潔に説明してあるのだろう、と思われるかもしれないが、そうではない。説明をこえてもっと深く、もっと豊かな場所に導いてくれる。
ここにあるのは、実際に教会に身を置いて、教会で生きている人によって書かれた文章である。まさに本書の構成どおり、教会の土台を信仰によって受けとめ、感謝をささげ、希望を与えられ、教会を担っている人たちによって書かれたものなのだ。テーマに即して、具体的な知恵や、課題の明示や、アドヴァイスも語られている。だが、それだけでなく、その背後にメッセージが込められている。それは、あなたも神が働かれる「不思議」に自分の体をさしだして、神の恵みを存分に受けてほしい、というメッセージだ。生も死もつかさどる主の恵みの中で歩んでいこう、死をも超えて与えられる希望の中で歩んでいこう、という招きが語られる。神の招きを受け続けている者たちが、読者を「招いて」いる。あなたも神に応えていこう、と静かに力強く呼びかけている。『教会をつくる』のはだれか。あらためてこの本を読みながら考えさせられた。
この本は、教会初心者はもちろん、今教会に行っている人、教会に関心を少しでも寄せてくれている人、いろいろな人に読んでもらいたい。一緒に教会の「不思議」に出会いながら、あらためて恵みを受け、その恵みに応えて今日を生きてほしい、そういう願いが詰まった本である。
信仰生活ガイド 教会をつくる
石田学、大隅啓三、新井純、加藤常昭他著
古屋治雄編
四六判・128頁・1430円(税込)・日本キリスト教団出版局
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菅原力
すがはら・つとむ=日本基督教団大阪のぞみ教会牧師