竹本修三、木村護郎クリストフ著/日本クリスチャンアカデミー編 脱原発の必然性とエネルギー転換の可能性(久保文彦)

勉強会のテキストに最適の良書
〈評者〉久保文彦


脱原発の必然性とエネルギー転換の可能性
地震国日本の現実とドイツの先例から考える

竹本修三、木村護郎クリストフ著
日本クリスチャンアカデミー編
四六判・186頁・定価1650円・新教出版社
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 本書は日本クリスチャン・アカデミーが企画した脱原発フォーラム(二〇一九年一月)の報告書である。講師二名(竹本修三氏、木村護郎クリストフ氏)の講演に加え、参加者による話題提供、質疑応答を収録する。
 竹本氏(京都大学名誉教授、一九四二年生)は脱原発の市民運動で活躍する地球物理学者。講演「日本の原発と地震・津波・火山」は、原発の利用が自然の摂理に逆らった人間の愚かな行為であることを指摘する。今日の地球科学の知見によると、四つのプレートの結合部に位置する日本列島は、巨大地震が多発し大津波や火山噴火が繰り返される土地である。特に陸と海のプレートが衝突する太平洋沖では、二〇一一年時のような海溝型超巨大地震の発生が予測されている。人間は自然界の一員である限り、その営み全体は自然の摂理には逆らえない。この真実を踏み外し、巨大地震が必ず発生する土地で原発を稼働させ、無毒化まで十万年レベルの監視が必要な放射性廃棄物を地中に埋め捨てできると考えるなら、それは自らの限りある能力を過大評価する人間の浅知恵に過ぎない。
 竹本氏の講演録を拝読し、評者は「主を畏れることは知恵の初め」という聖句(箴一・七)を思い起した。原発事故を繰り返した人類に求められているのは、創造主が定めた自然の摂理と調和する科学技術の運用ではないだろうか。事故の教訓を学ばず今後も原発を利用し続けることは、主を畏れず知恵を欠く人間の振る舞いを意味していよう。
 木村氏(上智大学教授、一九七四年生)は、社会形成の基盤としての言語・エネルギーを研究する言語社会学者。講演「ドイツのエネルギー転換の思想と実践」は、脱原発を決断したドイツのエネルギー政策に日本人が抱く疑問に答えつつ、その背景にある歴史と思想を紹介する。ドイツの脱原発政策は日本でも注目度が高く、多くの紹介記事が書かれてきた。本講演のポイントは、教会と原発問題の関係についての解説である。実は福島原発事故以前からドイツの教会はカトリックもプロテスタントも原発のリスクを長年にわたり論議し、エネルギー転換の必要性を市民社会に提言してきた。
 福島原発事後後、ドイツ政府の倫理委員会が原発の利用は持続可能性と責任の原則に反すると指摘した報告書を公刊し、脱原発政策の推進役を務めたことは広く知られている。倫理委員会のメンバーには教会関係者が招かれている。エネルギー利用の倫理に関する議論の蓄積が教会にあったので、その見識が求められたのである。科学技術の暴走を防ぐために、そのリスク判断を専門家まかせにせず、市民の集合知によって行う「科学技術のシビリアンコントロール」の一翼を、ドイツでは教会が担ったと木村氏は指摘する。こうしたドイツの教会の姿は、日本の教会や宗教者の社会的責任を考える上で示唆に富む。
 原発とエネルギーの問題は、科学技術文明とキリスト教信仰の関係や、自然環境破壊に対する教会の責任を考察する上で無視できないテーマである。教会・修道会・学校での勉強会のテキストに本書を推薦したい。

書き手
久保文彦

くぼ・ふみひこ=上智大学基盤教育センター講師員

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