渡辺正男、小島誠志、島しづ子、川﨑正明、上林順一郎共著 夕暮れに、なお光あり。(三吉信彦)

ご同輩、夕映えに向かう旅装を整えましょう!
〈評者〉三吉信彦


夕暮れに、なお光あり。
老いの日々を生きるあなたへ

渡辺正男、小島誠志、島しづ子、川﨑正明、上林順一郎共著
四六判・166頁・定価1650円・キリスト新聞社
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 本書のタイトル「夕暮れに、なお光あり」は、キリスト新聞(Kirishin)に掲載されたコラムの名からとられています。そのコラムは高齢者向けに企画され、五人の牧師が交代で執筆し、三年間続きました。今回、それらを眠らせたままにするに忍びないと、各執筆者のエッセイそれぞれ七編ずつを選んで収録、この本が出版されたのです。
 サブタイトルに「老いの日々を生きるあなたへ」とあるように、自らも高齢域に達した牧師たちが、仲間に語りかける思いで文章がつづられています。
 本の装丁がとてもおしゃれで、野ブドウとワインカラーの枯葉の配置が、人生の夕暮れ、「老いと実り」を美しく描き出しています。夕陽に向かって立つ身に、夕映えの光を浴びる恵みを感じさせます。
 本を開くと、各ページの文字が大きく、段落が適度に区切られていて、文章も簡潔でとても読みやすく感じました。

 さて執筆者ですが、渡辺正男、小島誠志、島しづ子、川﨑正明、上林順一郎の各牧師です。皆さんそれぞれ著名な方々で、いくつかの教会を牧会されたベテラン牧師です。また著書も多く、教育や福祉、社会問題にも長く関わられた経験豊かな方々で、この五人の選びは絶妙です!このうちお三方は、私と同様にハンセン病療養所との交わりを長く持っておられて、エッセイの中にも触れられています。また、掲載された夕陽の写真は、大島青松園の脇林清さんの作品です。
 執筆者の皆さんはその豊かな人生においても、配偶者を亡くされたり、家族に障碍者を抱え、あるいは自ら大病を経験されるなど、それぞれ重荷を負ってこられたことがうかがえます。それらを内に秘めつつ、紡ぎ出す言葉の深みが、読む者の心に響きます。時にユーモアを交えての語り口に心和みますが、同時に執筆者が老いの現実に真剣に向き合う中で得た結論、あるいは覚悟が生み出したゆとりであると弁えて、心が引き締まる思いでした。
 さて、個性豊かな五人の皆さんのエッセイは、どれも心に響くものばかりですが、紙面の関係で私が感動を覚えたエッセイをお一人につき一つずつご紹介します。
 渡辺正男牧師は、平易な言葉遣い、短いセンテンスで優しく語りかけて下さいます。「うれしかったこと」心が震えました。
 小島誠志牧師は、明るく前向きに「ご同輩!」と呼び掛けて下さいます。「断捨離」以前より蔵書が増えた!元気をいただきました。
 島しづ子牧師は、うふざと伝道所の現役の牧師さん。辺野古での活動で船長さんに!「クリスマスプレゼント」深く感動を覚えました。
 川﨑正明牧師は、文芸や美術に造詣が深く、自然観察眼が豊か。
 エッセイにも表れています。「壊れたどんぶり鉢」感動しました。
 上林順一郎牧師は、老いの現実を自虐気味に、かつユーモアをもって語られます。「しんがりを、のろのろと」私の心にジン!と。
 執筆者は皆牧師さんですが、エッセイでは説教じみた話は一切なく、神のみ前に老いてゆくご自分を見つめつつ、最後はやはり短い聖句で締めくくっておられます。皆さんの信仰の深みを感じ、感謝でした。
 「執筆者それぞれに、固有の人生があり、個性があります。その紡ぎ出す言葉を、どうぞ、心の耳を澄ます思いで、繙いてみてください。きっと支えになるでしょう」(渡辺正男牧師「はじめに」より)

書き手
三吉信彦

みよし・のぶひこ=公益社団法人好善社代表理事、日本基督教団教務教師

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