清々しい印象感が残る夫婦での留学記
〈評者〉小野タキ子
わたしの敬愛する山口衣子先生の著書『私のハットフィールド』の書評ということですが、まことに恐れ多いことで、書評と言うことにはならないかと思いつつも先生への敬愛の思いの一端を語ればよいかなと思いつつ書かせていただいております。
海外、特にアメリカに留学(キリスト教関係)するかたがたが多い昨今ですが、今から40年以上も前に夫婦で、そして一歳、四歳の幼児を連れて、アメリカの神学校に留学するご主人(勝政師)と共に渡米するということは並大抵でない決心であったことと思います。しかも、神学の学びに専念するご主人を助けつつ、一家のあらゆる生活、経済的なやりくり、子供たちの育児の世話や教育、生活費を得るための日々の労働の戦い、アメリカとの生活習慣、文化の違い、言葉の壁などあらゆる孤独な戦いを戦いつつ、4年間の留学期間を勝利をもって全うできたことは驚きと言ってよいことです。
確かに、この著書の中には、一家を支えるためのアルバイトから来る疲れ、腰痛など持病のために、いつも苦しみながら、祈り求める著者の姿が描かれています。しかし、「恐れるな……あなたと共にいつもいる」(創世記28・15)など、折にかなって語られる主のみ言葉に常に励まされて立ち上がる著者の姿からはみじんも敗北感、挫折感は感じることは出来ません。常に信仰から来る希望に満たされて立ち上がっていますから、清々しい印象感のみが残ります。
ところで、著者を支えたのは、もちろん、勉学に専念する勝政師や子供たちへの夫婦愛、家族愛があったことであり、彼らもまた、妻、母親に協力し、一心同体となって苦境を乗り越えたと推察しますし、また著者特有のユーモアのある筆致でその間の出来事が記され、時にほほえましく、また学ばされます。
しかし、以上のことと共に私の思い込みでなければ、著者を支えたのは、その題名にありますように、アメリカのペンシルベニヤ州にある地方都市ハットフィールドという自然豊かな町とその周辺に住む愛情にあふれたクリスチャンたちではなかったかと思われます。よく、アメリカの地方都市には古き良きアメリカが残されていると聞きますが、それ以上に、ここはピューリタン精神が色濃く残ると共に、福音主義を固守する人々のまさに「古き良きアメリカ」の地ではなかったのでしょうか。
著者はすぐこの地に溶け込み、人々に愛され、またこの地の人々を愛し、一方ならぬ祝福と恵みを与えられたことは、感謝をもってつづられたこの文章に多々見受けられることです。この地のクリスチャンたちもまた日本に戻って、異教の地でキリストの愛を伝える若き日本人の家族たちを愛情をもって迎え入れ、それにふさわしき人材として日本に送り返すことに特別な意味を感じたのではないでしょうか。彼らにはいまだに衰えない世界伝道のスピリットが脈々と流れていることを感じさせます。
最後に著者ご夫妻がかの地で学ばれたことを基として、今もまた伝道困難と言われる茨城の地での地方伝道に長い間いそしまれ、奮闘され、多くの実を結ぶと共に、後に続く地方伝道者たちの良き証人、励ましとなられていることに深い感謝を覚えながら筆をおくことと致します。
私のハットフィールド
山口衣子著
四六判・152頁・1430円(税込)・ヨベル
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小野タキ子
おの・たきこ=日本ホーリネス教団佐渡相川キリスト教会牧師