荒川朋子著 共に生きる「知」を求めて(色平哲郎)

農業実習すると、英語と世界史の偏差値が15ポイントずつ、上がる学院
〈評者〉色平哲郎


共に生きる「知」を求めて
アジア学院の窓から

荒川朋子著
新書判・240頁・1320円・ヨベル
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 朋子さん!
 今年2023年は朋子さんが校長を務めるアジア学院創立50周年ですね。誠におめでとうございます。そして、貴著〈共に生きる「知」を求めて〉の出版、うれしいことです。一読、すばらしい。周囲の高校生や医学生、看護学生に勧めたいと存じます。

 私たちが家族で学院を訪ねたのは30年ほど前のこと。西那須野駅から歩いて参りましたことを覚えております。高見敏弘先生がお元気でした。

 高校生や(医学部)浪人生向けに講演する際など、学院での農業実習を勧めるようにしております。「実利的に申し上げれば、英語と世界史の偏差値が15ポイントずつ、上がります」などと申し上げるのは、学院理念に照したなら、通俗的にすぎることでしょうか。

 ですが、実際に、学院の皆さんと一緒に農作業で汗を流し、食卓を囲んだ経験のある生徒さん、学生さんからは「おもしろかった」「たのしかった」「いのちをいただいているんだ、ということを自覚させていただいた」といった感想が寄せられます。

 こういった現場体験とともに、文字通り世界中の若者と英語で語りあうことを通じ、世界の、地球上の現状や闇を理解しつつ、しかも英語と世界史の偏差値が上がるのであれば、それはそれですばらしいことでありましょう。「東京のICU(国際基督教大学)のリベラル・アーツが体験できる場なんだよ」と申し上げております。

 学院の先駆性は「ともに生きる」という理念を、理屈を超え、日々実践されている点にありましょう。

 私の勤務する佐久総合病院は、別名「サケ騒動病院」と呼ばれるほど、(地域住民としての)農民たちとの交流を大事にしております。現在は「病院の形」をとってはおりますが、78年前、敗戦直後の設立時には「ユニオン」であって、「農民とともに」をモットーに、この間、地域に根ざした保健医療福祉介護の実践に取り組んで参りました。

 だいぶ以前から貴アジア学院と交流をもちたいものだと考えておりました。そして念願かなって、当院の研修医たちに通ってもらうことが叶いました。学院での農業研修後、彼らはフィリピンのレイテ島を訪問し、短期間ですが保健実習をしています。

 医師(石)頭になりがちな臨床医に、若いうちにこそ「世界」と「世間」を知っていただき、「広い視野」と「低い視点」を大事にした診療を続けていただきたいと願うからです。

 プライマリー・ヘルス・ケアということばがあります。住民が医療機関のオーナーシップを保ちながら、プロフェッションたる技術者と「ともに」地域づくりにとりくむという発想で、1978年のアルマアタ宣言に体現されています。

 プライマリー・ケアということばと似ていますが、「方向性」が真逆となります。PHCでは住民が主体で、技術者とともにとりくむ。PCでは医療技術者が主体で、住民は客体です。

 学院での日々の実践から、この地球の矛盾や悲しみ、驚きや喜びを英語で共有できる、弱い人、貧しい人、苦しんでいる人、小さくされている人へのケアに関心をもつ、そんな若者たちが育っていくことを期待します。

 ホモ・サピエンスというより、ホモ・クーランスとよばれる人間観を体現した各国の若者たちに、今後の「地球の健康」(プラネタリー・ヘルス)が託されることを期待しております。

 「ちがい」と「まちがい」を尊重できる、そんな寛容な貴学院の「創立100周年式典」に、2073年、ぜひ参加させてくださいネ。

書き手
色平哲郎

いろひら・てつろう=JA長野厚生連佐久総合病院内科医師

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