ジョン・ポール・レデラック著 敵対から共生へ 平和づくりの実践ガイド(久保木聡)

紛争から望ましい状態への変革がはじまる
〈評者〉久保木聡

敵対から共生へ 平和づくりの実践ガイド
ジョン・ポール・レデラック著
水野節子、宮崎誉共訳
西岡義行編
新書判・152頁・定価1210円・ヨベル
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 「教会の献金箱に入っていた献金が盗まれた!」
 そんなことがあったら、あなたはどうするだろうか?
 たまたま別用で撮っていた動画に、盗む場面が写り込んでいて犯人が見つかった場合、いったいどうするだろう?
 本書では「紛争解決」や「紛争管理」よりも「紛争変革」を大切にする。献金が盗まれたら、盗んだ人を出入り禁止にすれば、献金が盗まれることのいざこざは解決するかもしれない(紛争解決)。はたまた、盗みが起こらないように献金の管理システムを整え、監視カメラなり、頑丈な献金箱にすることも大事かもしれない(紛争管理)。しかしそれでは「紛争変革」にはならないのだ。
 盗んだ人の背景に、貧困があるかもしれない。もしくは教会内である人たちばかりに注目が集まり、注目されていない寂しさが盗難に駆り立ててしまったのかもしれない。つまり、盗難は教会が貧困に目を向け、自分たちのできることを問い直し、自らを変革する機会にもなりうるし、もしくは教会内である人たちが冷遇されていることに気づき、教会を変革する機会にもなりうる。しかし、そのことに目を向けず、盗んだ人を出入り禁止にしたり、監視カメラや頑丈な献金箱を設置したりするだけでは、せっかくの変革の機会を逃してしまうことになる。
 本書は「衝突コンフリクトはひとつの機会、賜物ギフトです」(三五頁)と語る。つまり、盗難は教会が変革されていくための機会を提供する賜物ギフトとなり得るのだ。
 著者ジョン・ポール・レデラックは米国コロラド大学で博士号を取得した社会学者であり、ノートルダム大学(インディアナ州)のジョーン・クロック国際平和研究所で国際平和構築論を教えてきた。そればかりか米国のみならず中南米、アジア、ヨーロッパの各地で紛争の調停や助言(コンサルテーション)、対話の支援を行ってきたことが本書の中でも紹介されている(一二〇頁)。立正佼成会には毎年、宗教的精神に基づいて、宗教協力を促進し、宗教協力を通じて世界平和の推進に顕著な功績をあげた一名または一団体を対象にして表彰する庭野平和賞というものがある。二〇一九年に、レデラックはこの庭野平和賞を受賞している。副賞は賞金二千万円とのこと。つまり、乱発してもてはやすような軽々しい賞を受賞したのではない。彼の働きは他宗教団体が大いに認め、賞賛するほどの実績があるものなのだ。
 わたし自身は、レデラックの手法とは多少違う「NVC(非暴力コミュニケーション)」という紛争から和解に向かう手法を実践し、シェアしている。とはいえ、十一年前に刊行された本書を読むたびに新たな発見があり、コンパクトな本であるにもかかわらず、その内容の豊かさに驚かされ続けている。実際に紛争/衝突に関われば関わるほど、紛争/衝突がギフトであることの深みに触れ、レデラックが本書で述べているとおりだと感嘆させられている。
 以前はA5判で発行されていた本書がこのたび、新書版で発行されることとなった。より手軽に持ち出して、いろんなところで読むことができるようになった。そんなわけで、紛争/衝突の先にある恵みの世界を味わってみたい人には、ぜひとも本書をどこででも手に取ってじっくりと味読してほしいと願っている。

書き手
久保木聡

くぼき・さとし=日本ナザレン教団鹿児島教会牧師

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