旧約学者が教える聖書を読み解く鍵
〈評者〉真壁 巌
今春、東京神学大学を退職された著者は、郷里である青森県黒石市に戻られた現在も日本旧約学会会長という重責を担われる大変優れた旧約聖書学者です。著者曰く「足掛け一五年の歳月を経て、ようやく本書を出版することができ」、『聖書のことば辞典』という書名の本となりました、とのこと。すでにある機関誌からの依頼によって四〇回も連載した「信徒のための旧約聖書基礎知識」に、さらに一〇項目を加え、計五〇項目のことば辞典となりました。
目次を見ると、〈愛〉から〈霊〉(五十音順)に至る各項目が三ページほどに纏められ、大変読みやすい内容です。その証拠に「信徒のための」用語解説集であったはずが、教団教師検定試験の「旧約聖書神学」の受験対策にも活用されたとのこと。一読して、それを確かめられました。
ただそれ以上に感心させられたことは、各項目のほとんどでイエス・キリストとの関係に触れていることです。ここに「旧約聖書の基本用語を学ぶことによって、新約聖書への道筋がきちんと見えてくることを目指し」た著者の思いがあります。本書名に至った経緯もそこでした。
もちろん、すべてを解説することはできませんが、評者の特権でその内の幾つかを取り上げたいと思います。
まず〈安息日〉。「ユダヤ人が安息日を守ってきたのではない。安息日がユダヤ人を守ってきた」と言われるほど、主の民にとって大切な戒めです。そして主イエスが言われたとおり、「安息日は人のために」あります。これによって私たちも主(日曜)日に礼拝をささげるのです。
次に〈共同体〉。教会の起源がペンテコステにあると説く著者は、それはまさにモーセがシナイ山で神と契約を結んだ出来事の再現であるとします。契約共同体としてのイ11スラエルは歴史的経過を経て地域共同体をつくり、それがキリスト教会のひな形になります。その後、キリスト者が「新しいイスラエル」と見なされるようになりました。
そして〈時〉。著者の専門はコヘレトの言葉の研究ですが、コヘレトの「時」は神が定めたカイロス(質的時間)であり、クロノス(量的時間)を生きる人間はそれをつかめません。それは神の秘義であって、人間にはらかにされないのです。だからこそ時間が神からの賜物であり、今の時をかけがえのないものとして生きるのです。
〈平和〉(シャローム)は昔も今も切実に求められます。毎日、血が流されている中東でもこの言葉で挨拶が交わされています(アラビア語でサラーム)。著者はこのシャロームをもたらす神が、救い主として到来するメシア信仰こそ決定的に重要であると説きます。さらに平和をもたらす救い主が、自らを犠牲にしてそれを完成させます。真の平和は「彼の受けた懲らしめによって」与えられ、それは神の御子イエス・キリストを指しているのです。
実は、神学校を卒業したばかりの私が最初に遣わされたのが黒石教会でした。その教会の役員でもあり、中心メンバーであったのが著者のご両親でした。まだ若く、何も分からない私に、教会は単に人の集まりではなく、キリストの愛と赦しを注がれて遣わされ、再び帰る場であることを教えてくださいました。今も忘れることはできません。













