H・ナウエン、W・ガフニー著/原みち子訳/木原活信解説 老い(橋谷英徳)

年齢を重ねることへの霊的洞察教会刷新の可能性がここに
〈評者〉橋谷英徳


ナウエン・セレクション
老い
人生の完成へ

H・ナウエン、W・ガフニー著
原みち子訳
木原活信解説
四六判・144頁・定価1980円・日本キリスト教団出版局
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 『闇への道 光への道』(こぐま社、一九九一年)の新版である。タイトルは原題通りに『老い─人生の完成へ』と改められた。ナウエンとガフニーの共著である。イメージ豊かな平易なことばで記されている書物でありつつ、ゆっくりと反芻しながら読んでようやくわかってくる深みを持つ書でもある。
 老いることの意味が、闇への道と光への道という視点で考察され、さらに世話(ケア)することの意味が明らかにされる。よく見られるハウツーものではなく、老いについて難しく哲学的に論じたものでもない、このような書物は、他に類を見ない。

 本書を高齢者の方々に読んでもらいたい。数年前に両親が死去したが、彼らが七十歳代に「老い」に関する本が書棚に幾冊も並んでいた。老いることについて悩みつつ、その道を尋ねていたのであろう。老いを受け入れ、生きることは大変なことである。生産性と効率に呪縛されてしまっている今日の世界は、老いをただ否定的・悲観的にしか捉えようとしない。そこからの自由と解放、さらには霊的癒しが必要となる。本書はそれを与えてくれる。ここに書かれていることを自らのものとして生き始める時に、景色が一変していくのではないか。
 中年期に差し掛かる人たち、若い人たちにも薦めたい。老いとは、年をとることで、すべての人に関わる。思春期の危機よりも中年期の危機の方が人間にとってより深刻であると臨床心理の専門家から教わったことがある。死が近づく、その危機がさまざまな現象を生む。それはより深刻な危機となる。高齢に達してはじめて危機が襲うのではない。遥か以前に、多くの人たちがほとんど気づかない間に危機は訪れている。そこでは自らの老いを受け入れるか否かが決定的に重要なこととなる。本書では「自分の存在の中核」と呼ばれているが、そこで受け入れることが鍵となり、すべてが変わってくる。そこにはあるプロセスが必要となる。そこにケアの道もまた開かれてくる。
 家族の介護に労する人たち、各種のソーシャルワーカーや医療現場で働く人たち、信徒たちに本書を手に取ってもらいたい。闇の中に光が差し込んでくるようになるかもしれない。「世話をしていくには、自分自身の傷つきやすい自己を、相手を癒やす源として差し出さねばならない。老いゆく人の世話をすることは、それゆえ、なによりまず、あなた自身が老いゆく自分の自己と深く接触すること、自分の時間を意識すること、自分の人生の軌跡が刻々とつくられているのを感じること」(本書68ページ)とされる。そこで出会う人たちへのケアの道が開かれていく。つまり、ケア(世話)することはただ優しくしたり、訪ねたりすることなのではないし、ハウツーではない。ナウエンの牧会論の心臓部である。
 終わりに司祭や牧師たちにこそ、本書を心から薦めたい。筆者の不勉強のせいかもしれないが、神学書を紐解いても、老いることへの深い考察がなされているものを見出しえない。率直に言うと無自覚にも教会はこのテーマを避け遠ざけてきたのかもしれない。教会では「若さ」にのみ憧れと関心が向けられ、アンチエイジングの共同体となって、高齢化は「問題」としてしか扱われていないのではないか。しかし、そこでは教会は立ち上がることはできない。全く反対に、「老い」について霊的に神学的に考察することが道行き悩む今日の教会に光を与えることになるのかもしれない。このことが教会刷新の突破口となる。本書はすべての私たちの課題に答えを出してはいない。私たちは先を進まねばならない。深く向かい合ってゆきたい。

書き手
橋谷英徳

はしたに・ひでのり=日本キリスト改革派関教会牧師

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