「女たち」の運動が確かに刻まれて!
〈評者〉今給黎真弓
日本におけるキリスト教フェミニスト運動史
1970年から2022年まで
富坂キリスト教センター編
山下明子、山口里子、大嶋果織、堀江有里、水島祥子、工藤万里江、藤原佐和子著
B5判・216頁・定2750円・新教出版社
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これほどまとめられ、整えられた本が出版されたことに感謝したい。キリスト教界に確かに存在していた女たちの運動の足跡が、歴史として、ある程度まとめられ記録されている。組織や形にとらわれない自由な活き活きとした女たちの運動は、その時・その場のひとりひとりを生かすが、記録に残ることが少ない。研究会チームは、各教派に残された文書を丁寧に掘り起こし、運動に関わった人々に聴き、女たちが何を問い、何と闘い、何をめざしてきたかを記している。
本書第一部では、1970年から2022年までの年表(キリスト教界と社会の動きが並記)が記され、10年ごとの解読とその時代の課題が提示されている。ひとりの女が、それまで「当り前」としていたことに疑問を抱き、言葉化し、個人の問題に留めずに、声を上げていく。そこに呼応する者たちが集まり、構造を変えていこうとする運動の起こりをみることができる。また性別二元制の中では被抑圧者であった女たちが「性的マイノリティ」と括られる人々との関わりの中では、抑圧者の側にいるのではないかとの気づきが与えられる等、被害者性と加害者性の両方に向き合わされていく。キリスト教の家父長制と異性愛主義の中で起こされた女たちの気づきと連帯が、それぞれの教派、さらにキリスト教界の変革につながる期待を持つことが出来る。また、50年間の振り返りの座談会の中では、課題の抽出とともに「フェミニストとは何か」が語られているが、定義づけではなく多様な解釈が述べられ、まさにフェミニスト運動の多様性を表している。
第二部「それぞれの経験」は、2人へのインタビューと2つの講演録からなる。インタビューは、フェミニスト神学との出会いや、何に抵抗し、誰と活動してきたか、その評価とこれからのキリスト教会への思いや次世代に伝えたいことを中心としている。講演録は、「沖縄」「在日」におけるフェミニズムの視点が記されている。自分史が抵抗運動の歴史となっているようなそれぞれの物語からは、その時の痛みや共闘のわくわく感、しなやかに強く生きる空気感が伝わってくる。
第三部「課題を掘る」では、①『福音と世界』におけるジェンダー/セクシュアリティ表象、②NCC加盟教会における女性の按手、③天皇制・キリスト教・女性、④フェミニスト神学、⑤結婚式式文、⑥異性愛規範に抵抗する〈女たち〉の連帯と題し、6人研究者たちの論考が載せられている。いずれも改めて現在的な課題であることを思わされ、読めば読むほど、言葉の宝を見出す。
本書の発行までに、著者たちの運動と研究の深みに加え、多くの(限定されていると言いつつも)文書の分析にどれだけの時間がかけられただろうかと思う。またそこに呼応し、寄せられた声や文書があったのではないかと想像する。この本の発行自体もまた、女たちの運動のひとつの成果ということが出来るのではないだろうか。自分の立つ場を再確認させられ、何を見、どのような言葉を見出し、誰と繋がっていくかを考えたいと思わせる「使える1冊」である。
今給黎真弓
いまぎれ・まゆみ=日本バプテスト連盟豊中バプテスト教会牧師