聖化と聖書講解を特徴とする説教集
〈評者〉藤原導夫
本書にはイギリス、アメリカ、インドなど海外講師三名による説教が九篇、日本の牧師六名による説教が七篇収められています。いずれも2022年に日本各地で開催されたケズィック・コンベンションで語られたものです。ケズィック・コンベンションとは、イギリスのケズィック地域で始まったホーリネス運動促進のために生まれた超教派的聖会です。その歴史と伝統を受け継いで日本でも北海道から沖縄までの各地で毎年講師を立てて「聖会」が行われています。聖会は2022年で61回となりますが、各地の聖会の開催期間は1日~3日とさまざまであり、会衆は教職者、信徒の別なく参加出来るものとなっています。
この集いの特徴は、いわゆるきよめ派と呼ばれるグループが中心となっており、講師も会衆もそのような人々で構成されています。しかし近年ではより超教派的な広がりをもって講師も会衆も構成されている様子もうかがえます。そして、そこで語られる説教も単に「きよめ・聖潔」の強調のみならず、キリスト者生活全般にわたる領域へと広がっていることが見て取れるように思われます。
ここで語られる説教は基本的に「バイブル・リーディング」(聖書講解)です。聖書テキストを取りあげ、それらを丁寧に解説していくのです。けれどもテキストの流れを忠実に追うことに留まらず、それらを論理的に再構成して主題的にも語るという特徴も見られます。例えば、本書の最初に記されているジョナサン・ラムの説教は「ピリピ人への手紙」四章六~九節からです。基本的にはそこを解き明かしていくのですが、①神の備えにより頼む、②神の目的を知る、③神の平安を知る、④神の真理に焦点を合わせる、というように主題的にも整えられているのです。その点では、講解説教でありつつ主題説教的でもあり、聴き手にも論理的に整った分かりやすい説教として語られています。
このことは本書の説教者すべてに基本的に共通する特徴ですが、「かつて、そこにおける」聖書の釈義のみならず、「いま、ここにおける」次元にもブリッジを架けて、その聖書テキストの意味を説き明かそうとする取り組みがなされているところは大きな力や魅力となっています。なぜなら聴き手はその聖書テキストの過去の意味のみならず、それが現在においてどのような意味をもって自分に語りかけているのかを知りたいと願っているからです。そのような点からすれば、本書に収められている説教はきわめて良くバランスが取れており、聴き手の心に深く届くものとなっていると言えましょう。
日本人六名の説教者は私が存じ上げている方々も多く、興味をもって耳を傾けました。そこではすでに指摘したように聖書テキストから「演繹的に解き明かす」流れがやはり中心ですが、中には日常的な事柄から説き起こして聖書テキストに橋を架けて語るという「帰納的スタイル」も見られ、ケズィック説教の多様性や変化をもうかがい知ることができました。一読をお勧めします。
藤原導夫
ふじわら・みちお=お茶の水聖書学院前学院長