伝統を踏まえた革新的な教義学
〈評者〉近藤勝彦
著者コリン・ガントンはロンドン大学キングス・コレッジのキリスト教教義学の教授でした。オックスフォードのマンスフィールドという会衆派を背景にしたコレッジで神学を修めた人で、この背景から現代神学を展開する姿勢は、私にとっては興味深い存在でした。パネンベルクより一世代下で、私の同世代の神学者と感じていました。
ガントンの研究には、三位一体論とそれを踏まえた創造論の研究(『三位一体的創造者──歴史的ならびに組織的研究』、一九九八年)があって、古代から現代に及ぶ主要な教理史と、プラトン、アリストテレス、それにカントの哲学に通暁していました。その豊富な研究は本書の叙述の端々にも現われています。カール・バルトの研究を踏まえながら、二位一体論的と批判したことも記憶されます。
そのガントンが六二歳で逝去しました。その年齢では、バルトなら『教会教義学』の創造論も和解論もなく、ティリッヒなら『組織神学』なしです。本格的な教義学はまだもっぱら計画の中でした。しかし本書が残されました。本書はガントンの教義学のほぼ全貌を提示した貴重な著作です。
本書の構成は古代の信条(使徒信条やニカイア信条)に従って三部構成です。第一部は「天地の造り主」(「創造」と「摂理」と「男と女」)を扱い、第二部は「神のひとり子、私たちの主」(「救い」「イエス・キリストとは誰か」「受肉と人性」)を扱い、第三部は「完成させる方・聖霊」(「教会論」「キリスト者の生」「最後の敵」)を扱います。それに「結語」として「三位一体論」、全体一〇章、三八節の教義学です。
本書の特徴を一言で言えば、伝統を踏まえた革新的な教義学と言えるでしょう。本書の革新性には、現代の文明や社会に対する敏感な感受性を持ったガントンの文化の神学が関連しているとも言えるでしょう。経綸的三位一体論が本書の全体を貫きます。神(御父)の働きは「二つの手」(御子と御霊)によって媒介されていると語られます。また、御子と御霊の関係は永遠のもので、「子は、子と父の愛を聖霊が実現し成就する仕方によって子となることができる」と言います。「子は父より生まれ」は、聖霊の介在によるとの主張でしょう。その他、注意深く読むことで、読者は新しい主張に気づき、多々発見があると思われます。キリストの人性が強調され、イエスの生涯が召命も含めて注目されます。キリストの代償は誰に対して支払われたかと問うべきでないと言われます。幼児洗礼を教会の公同性から肯定する主張なども見られます。専門性を秘めた入門書です。
疑問とするところ、足りないと思われるところもないわけではありません。教義学序説が欠けていて、「啓示」については記されません。「イエスの伝道」は言及されますが、救済史における「伝道」は無視されています。「キリストの不在」がしばしば語られるのは、甚だ問題的だと思われます。
決して容易と言えない凝縮された著者の文章ですが、訳された訳者の苦心と訳注や解説を記された訳者の労を多としたいと思います。
近藤勝彦
こんどう・かつひこ=東京神学大学名誉教授