信徒によるインタビューを交えた出色のメッセージ集
〈評者〉山口陽一
カンバーランド長老キリスト教会高座教会は、二〇二〇年に『イエスを見つめながら──カンバーランド長老キリスト教会高座教会七〇年史』(新教出版社)を刊行しました。本書は、この教会を三七年間牧会された松本雅弘牧師の退任を記念して発行されました。第一部「信仰へのメッセージ」は、ヨハネの福音書から主イエスとの出会いを取り上げた四つの洗礼・入会準備会テキストです。第二部「信仰からのメッセージ」には、赴任後最初の説教に始まり、三大節の説教や生島睦伸牧師の葬礼拝説教など一〇編が収録されています。第三部「キリストの教会を形成する」には、神学論文や雑誌記事など七編が収められています。
本書の特徴は各部冒頭の牧師へのインタビューです。教会員でありNHKディレクターとして「宗教の時間」「日本史探訪」などの制作にあたった大正大学名誉教授鈴木健次氏の問いかけは、ありきたりではありません。「信仰へのメッセージ」と「信仰からのメッセージ」という分け方も鈴木氏の提案とのことです。同氏は第一部について、「クリスチャンであろうとなかろうと多くの人が生活の場で直面する悩みを取り上げ、その癒しの糸口になるような話に始まって、回を重ねるとともに贖罪論などキリスト教の中心的な信仰が説かれる」ところに牧師の工夫を見てとります。それに対して松本牧師は、生島前牧師のカリスマにより成長した教会がカンバーランド長老教会の信仰告白に基づいた教会形成にパラダイムシフトし、新来者と教会員の双方のために伝道と牧会のバランスを考えて説教してきたと語ります。陪餐の資格を巡ってのやり取りは、伝道と牧会の双方をめざす牧師の姿勢をよく表しています。
第二部のインタビューで鈴木氏は言います。「『信仰からの』説教が主体となる主日共同礼拝の説教も、その背後には説教に至るまでの、『信仰への』牧師自身の迷いとか悩みが存在しているのではないかと推察しています。実は本書の編集にあたって、そうした舞台裏のお話を説教と説教のあいだに挟み込むことができないかと考えてこのインタビューを試みているわけです。(中略)狙いが成功すればあまり例のない立体的な説教集になると考えたのです」。鈴木氏は説教を聴く立場から、松本牧師の天地創造理解、神学の発展性、使徒信条を唱える意味、神の主権と人間の自由、イエスの贖罪死の理解について問いを重ねます。松本牧師はこれに誠実に答えています。ヘンリ・ナウエンが、主イエスのパンを裂く所作「取る、祝福する、裂く、与える」にキリストの生涯とクリスチャンの生き方を読み取ったことにふれ、松本牧師は言います。「牧会者としてたいへんな出来事に遭遇して私自身が苦しんでいるとき、辛く悲しむとき、もしかしたら教会員や周囲の人々からは、いちばん食べやすい大きさに砕かれているときだったかもしれないと、思い当たる節があるのです」。鈴木氏はさらに、教会の成長とはと問い、イスラエルがガザを侵攻する世界でイスラエルのカナン征服を語るだけでよいのかと切り込みます。まさに、生き生きと「立体的な説教集」が編まれています。
第三部には、松本牧師の論文「カンバーランド長老教会神学史における贖罪論の変遷に関する一考察」や、黙想をめぐる珠玉のエッセイがあります。
本書は説教者と聞き手が編んだ稀有な説教集であり、『高座教会七〇年史』と併せて読まれることをお勧めします。