保育者の魂の成長のために
〈評者〉相澤弘典
「お祈りの言葉がわからない」──キリスト教の幼稚園や保育園に就職が内定した学生たちが共通して抱く不安です。学生時代に週に2回の礼拝に出ていたとしても、保育実習や教育実習でいざ自分が祈るとなると、どう祈ったらよいのかわからないのです。
そんな不安や悩みを抱く学生たちや保育者に、この本を勧めたいと思います。保育者のなかには、キリスト教主義学校やキリスト教の保育現場ではじめてキリスト教と出会った方も大勢いることでしょう。そうした方々にぜひこの本を手にとっていただき、日々の保育の引き出しに祈りの言葉を加えてほしいと思います。
本書にはキリスト教の保育を理念とする幼稚園、保育園、認定こども園でそれぞれ働く3人の園長たちによる、あたたかく愛に満ちた62の祈りがおさめられています。子どもたち、保育者へのまなざしを感じることができます。
「こどもと祈る」の章では、園の日常における様々な場面を想定した祈りが収められています。大きな行事やドキドキした時の祈り、でっかい泥団子を「神さまに見てほしい」という祈りなど、子どもたちの気持ちに寄り添った祈りが綴られています。保育者が読めばきっと「あるある」と思いながら、時にはニヤッと笑いながら、「このように祈ってもいいのだ」という安心を得られることでしょう。
もっともわたしの心に刺さったのは、「わたしが祈る」の章に収められた、「保育者の祈り」です。すなわち、子どもや家庭のために心を痛めたり、人間関係で悩んだり、厳しい現実に直面して「やめたい」と思ったりする保育者自身が祈る祈りです。
保育現場は楽しく笑いにあふれるばかりではなく、心も体も深く傷つくことがあります。「祈れない」との思いにとらわれることもあります。だからこそ、この本の中の祈りの言葉に支えられることがあるはずです。
「キリスト教の祈りについて」の章では、簡単な祈りの作法や祈りの気持ちといった、祈りに関する大切なポイントについても触れられています。「キリスト教保育」の授業で参考書としても使えます。
保育者養成校における働きを通して、「世界は保育でできている」ことを実感しています。多くの人が子ども時代に何らかの形で保育を経験し、保育者と出会っています。人生の基礎が培われる大切な時期を共にする保育者は、子どもたちにとって非常に大切な存在なのです。実際、わたしが勤める頌栄短期大学には、小さい頃の出会いによって、保育者を志したという学生も少なからずいます。
上手で立派な言葉によるものだけが祈りとなるのではありません。保育者が、本書を手がかりにして、明るく軽やかな音楽のような祈り、魂のうめきのような祈りなど、祈りの言葉を豊かにしてほしいと思います。
「おわりに」で著者が語るように、「あなたにしか祈れない、あなただけの祈り」は保育現場で生まれます。子どもの笑顔のために労を惜しまない保育者たち、保育を通して世界をつくる保育者たち……。そんな保育者の魂の成長のために、本書の祈りの言葉が力になってくれるものと信じています。
相澤弘典
あいざわ・ひろのり=学校法人頌栄保育学院理事長・院長