黙示録を宣教的な視点で読み解く
〈評者〉石原知弘
本書は、南アフリカの実践神学者クニィ・ベルガーがヨハネの黙示録を今日の教会に向けて説き明かしたものです。訳者あとがきによれば、ベルガーはステレンボッシュ大学で博士号を取得し、国のアパルトヘイト(人種隔離)政策が廃止へと向かった重要な時期には南アフリカ・オランダ改革派教会の総会議長という重要な務めを果たしたということです。
訳者の三野孝一牧師は、南アフリカに留学して著者と同じ大学で学んだ旧約学者で、二〇一九年の引退まで日本キリスト改革派東京恩寵教会の牧師を務めました。私は三野牧師の後任として赴任した者ですが、引き継ぎの話し合いの合間に南アフリカの教会の話をうかがうのを楽しみにしていました。今回、訳者の手によって南アフリカの書物が日本に紹介されたことを心から喜ぶものです。
本書の内容は以下の三部から成ります。
第一部(第一章~第七章)では、ヨハネの黙示録という書物の内容と特色について述べられます。特に第四章から第六章は、父、子、聖霊の神についてあてられ、黙示録が三位一体の神の働きを告げる書物であることが明らかにされます。第二部(第八章~第一四章)では、黙示録の二章から三章にかけて記されているアジア州の七つの教会への手紙の内容が説き明かされます。本書の題名「開かれている門」は、フィラデルフィアにある教会にあてた手紙の中の言葉から採られています。第三部(第一五章)では、本書の教会での用い方について、小グループで話し合ってみるなどの具体的な提言がなされています。
こうした構成からも分かるとおり、本書は黙示録全体を釈義していく注解書ではなく、重要なメッセージを抽出して描いていくものです。ただし、その内容が厳密な釈義に基づいていることは、黙示録研究の第一人者として日本でも知られているリチャード・ボウカムをはじめとする多くの聖書学者の研究に随所で言及されているところから分かります。
本書の特色は、現代世界への宣教という視点に貫かれている点です。著者は、黙示録が書かれた時代の教会の問題は、直接的な迫害よりも周りの文化への妥協や同化であったという近年の研究に注目します。それは、南アフリカの教会が置かれている現状であり、日本を含む世界中の教会が世俗化された社会の中で直面している問題です。著者は、そのような今日の教会に、黙示録が教える三位一体の神への独自な信仰をあらためて伝えます。そして、その際に礼拝の意義を強調しています。確かに黙示録を読むとき、そこには難解な言葉や文章も出てきますが、何より賛美の言葉があふれていることに気づきます。本書は、教会が喜びに満ちた礼拝をささげることによって世界に福音を証しするようにと招いています。
旧約の専門家である三野牧師から黙示録についての書物を翻訳していると聞いたときは最初少し不思議に思ったのですが、訳者が教会でいつも力を込めて語っておられた宣教と礼拝の大切さが本書で繰り返し教えられているのを読んで納得しました。同じ関心を持つ多くの日本の教会の方々にとっても、本書は遠い国の書物でありながら実に身近なものとして読まれることでしょう。
石原知弘
いしはら・ともひろ=日本キリスト改革派東京恩寵教会牧師