南北コリアの境界線に立って
〈評者〉榎本榮次
国際平和活動家キム・ドンス教授(二〇二一年他界八五歳)が二〇一四年から二〇二〇年まで国境線平和学校特別招聘教授として、学生たちに自身の体験を交えた特別講義を行った。この学校は、ソウルから約一〇〇キロ離れた南北コリアの国境地域「鉄原」に二〇一三年に開校されている。六回の講義を要約しながら紹介する。
平和の構造に関するいくつかの問題
この地球は不平等と不正が支配しており、平和な環境とは言えず、一人の思いではどうしようもない巨大な構造から成り立っている。どう解決するか。それぞれが自分の置かれた環境の中でふさわしい独創的な方法で努力し、団結する力が必要である。
戦争と平和に関するいくつかの要因
現代の国際社会、国の中には戦争をいとも簡単に引き起こそうとする組織がある。どうしても戦争が必要であるとする軍国主義である。敵の攻撃性や残虐性を強調し、その危険性を過大に誇張して宣伝する。彼らは軍部の理念を美化し、国民の知らない膨大な金が使われる。国民は口を出せない。軍産複合体によって作り出される膨大な終わりのない落とし穴である。それは北にも南にも共通して存在する。それを止めるには、国際市民が団結して立ち上がることである。
平和的統一に関する議論
コリアの南と北は戦争による統一はしないという考えに同意している。それは民族の滅亡になるから。経済的交流と支援が交流を深めると同時に和解の雰囲気を向上させ、統一への雰囲気を高める。そのような投資が早期かつ多いほど統一の可能性は増すように信じる。
アメリカでの統一運動
五〇余年をアメリカで過ごした教授は、韓国の民主化と南北統一のために活動してきた。キリスト教会の人たちから大きな支えもあるが、一方でスパイ、アカと排除される。和解を求めて何度も北朝鮮を訪問し統一の道を模索。そこで気づかされることは、互いの意見を冷静に聞くこと、真意を知り和解することの必要性である。
平和構築としての仲裁論
平和を成し遂げるために、非常に大きな構造的な問題を解決しなければならない。どちらかが勝つか負けるかではなく、両者を和解させるための理論、「仲裁論」が必要である。平和を語る人の心の中に和平、平安、平和の基盤を備えることが最も重要である。
平和の実践と平和教育
平和を作る人の心に五つの準備が必要である。①自分自身を愛すること。②近しい家族との平和。③全く関係のない人々との平和。④構造的な関係での平和⑤国際社会での平和が求められる。
以上、武力によらず、自分に引き入れるのではなく、また相手に迎合するのでもなく、和解と統一を求める平和教育の実践の中からの言葉である。強い説得力と希望が湧いてくる。翻訳者の高野氏の熱い思いが伝わる本である。