絵本と子育てをめぐるエッセイ
〈評者〉久米小百合
絵本へのとびら
大嶋裕香著
四六変型判・128頁・本体1000円+税・教文館
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世界には様々な「扉」が存在しますが、この扉ほど開ける前からワクワクし私たちを夢語りの国へと誘ってくれる扉はないでしょう。扉に手をかけるのは子供たちばかりとは限りません。コロナ禍ですっかり疲れたお父さんも、日々の育児や雑用に追われているお母さんも、ひとたび絵本の扉を開けた途端なんだかニヤニヤしたり、わけもなく暖かい想いに包まれたり、そう、絵本とはまるで心で飲むホットココアのような飲み物! いや読み物だとつくづく思います。だから小さな手でも不思議の国がのぞけるように絵本の扉はあえて「とびら」と優しいひらがなになっているのかもしれませんね。
本書の著者は、結婚や育児などの家庭生活に関する著書やセミナー講師も務められ、牧師夫人でもある大嶋裕香さんです。執筆活動や講演のみならず、ご自宅でパンの教室を開催されていたほどのお料理上手でもある方。実は裕香さんとはキリスト者の著書をご紹介する福音番組で数回ご一緒する機会に恵まれました。多才なのに気さくで柔らか、そんな雰囲気の指先から次はどんな作品が生まれるのか楽しみにしていたところでした。
本書は絵本の世界へと道案内してくれる第一部の「絵本へのとびら」と、絵本の中でしか出会えない名言を集めた第二部の「言葉との出会い」の二部構成になっています。
一部では著者の裕香さんご自身の幼少時代にまで遡り、どんな時にどんな風に絵本と出会い楽しんで来られたのかを知ることができます。週刊誌の編集者であったお父様と薬剤師のお母様、絵に描いたような文系理系のご両親こそ、計量や発酵温度が難しいパン作りと文章を紡ぎ出す裕香さんのセンスなんだと妙に納得してしまいました。そしてあの昭和の懐かしい東京の陽射しの中で、たくさんの絵本や手遊び歌で育った少女が、やがて生涯の伴侶と出会いいつしか母となり子供たちへ読み聞かせる側になるのです。
この家族のアルバムはきっと読者の皆さんの心の中にも一冊はあるのでは。私も息子が小さい時の、なんとも無邪気でのんびりとした午後を思い出したりしました。
すっかり大人になると忘れちゃいますが、色を覚える、形を知る、数を数える、みんな絵本に教わっていたんですね。第一部で登場するたくさんの作品はみなさんのお宅の本棚にもあるかもしれませんよ。我が家にも今では埃をかぶったままの可愛い表紙が数冊、『しろくまちゃんのほっとけーき』やディック・ブルーナのシリーズなど捨てられずに残っています。
さて裕香さんが紹介された作品の中でとっておきの、それもかなりレアな作品をひとつあげさせてください。それは「春風美容院」という作品です。素敵なタイトルです、誰の作品かと思いきやなんと娘さんが小学生の時に書いた創作のお話でした! 既に活字離れ、ネット、ゲーム、LINE世代のど真ん中と思われるお嬢さんが、こんな軽やかでユニークなストーリーを生み出したなんてびっくり、頭が下がります。どんなお話か気になると思いますがネタバレになりますのでここではお伝えできません。どうぞ皆さんもGo to「絵本のとびら」の旅へ、期限はありません、ワクワクドキドキが待っています。
久米小百合
くめ・さゆり=ミュージック ミッショナリー