「エコロジカルな宗教改革」を求めて
〈評者〉山口希生
クリスチャンであるかどうかを問わず、多くの人が聖書に対して抱いているイメージは、「人が救われるために必要なことが書かれている宗教書」というものでしょう。もちろん、聖書は様々な時代に書かれた多様なジャンルの文書を含んでいるので、その内容を人間の救いの問題だけに還元できないということは、聖書を読み進めればすぐにわかることです。それでも、特に宗教改革以降、人々が聖書に問い続けてきたのは「如何にして私の救いが確かなものとなるのか」という問いだったことは否定できないでしょう。曲論・暴論のそしりをおそれずにあえて言わせていただければ、宗教改革とは「私の救い」を至上命題とする、エゴ中心的な宗教運動だったとは言えないでしょうか。しかし、人類が自己の繁栄のみを追い求めた結果、他の多くの被造物の生存が脅かされ、それが人類存亡の危機へと跳ね返ってくるという負のスパイラルに陥ってしまった私たちには、エゴ中心的な考え方や生き方から脱却することが強く求められています。本書の寄稿者の一人である藤原佐和子先生が述べておられるように、宗教改革から五〇〇年を超えたこの時代には、「エコロジカルな宗教改革」がぜひとも必要なのです。
そして、かつての宗教改革のスローガンが「聖書のみ(ソラ・スクリプトゥラ)」だったように、新たな宗教改革にインスピレーションを与えるのも聖書です。聖書はもちろん人間の救いの問題を扱っている書ですが、その人間の救いをさらに大きな枠組み、つまり全被造物の救い、そして地球共同体を構成する人間と他の被造物との真の和解という枠組みの中で捉え直す必要があるのです。東よしみ先生のヨハネ福音書の解説から、そのような大きな視点へと目が開かれるでしょう。大宮有博先生が論じられているように、神が与えようとしている安息の受益者は人間だけではなく、すべての生物であり、それどころか地球そのものなのです。大澤香先生は、多くのクリスチャンの方が慣れ親しんできた書に、新しい光を投じてくれます。クジラの腹の中で三日三晩を過ごすという預言者ヨナの話は、クリスチャンでなくとも聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。伝統的な聖書解釈では、ヨナ書は捕囚後のユダヤ社会を覆った偏狭な民族主義を批判する書だとされてきましたが、むしろ神の召命から逃げ回って窮地に陥るヨナを、他の被造物たちが助けてくれる友愛の物語として読むことも可能なのです! 同じことが、大宮先生の解説する「バラムとロバ物語」にも言えます。
近年、エコロジカルな視点から聖書を読み直すことを提唱する良書の出版が相次いでいますが、本書は環境問題のみならず、ジェンダー問題などの今日的課題にも取り組んでいる意欲作です。ぜひ本書を手に取られて、神の全被造物への惜しみない愛という新しい視点で聖書を読み直していただきたいと心から願っています。
山口希生
やまぐち・のりお= 日本同盟基督教団中原キリスト教会牧師