【出会い・本・人】物語る本をめぐる物語

一冊の本との出会いが人生を変えることがある。
二十五年ほど前のこと。当時三菱重工で働いていたぼくは牧師を志し、英国ナザレン神学校で学ぶことになった。退職まで一年を要したので、その間に読むものを求めたところ、当時のマゴニガル校長から届いた十三冊の一冊がマイケル・ロダール著STORY OF GODであった。表紙のポップな色づかいにかかわらず、当時のぼくにはまったく歯が立たなかった。こんなことで留学してだいじょうぶかと、かえって不安になったぐらいだ。英語力の不足、神学書を読むのが初めて、というハンディキャップ以外に、この書が読む者にパラダイムシフトを迫ることにも原因があることに気づいたのは、かなり後のことだった。聖書は物語。主人公である神が、愛ゆえに私たちとかかわり続 ける物語。世界もまた神の愛の物語。これだった。
ぼくは本を読むのも理解するのも遅いほうだと思う。なにを読んでもきちんとわかった気がしない。けれどもこの本だけはきちんと理解しなければならないような気がした。でもただ読んだだけでは何が書いてあったのか、すぐに忘れてしまう。そこで牧会の合間に少しずつ翻訳し始めた。わからないところは著者ロダールにメールで訊ねた。それでもわからない箇所は書き直してもらった。今思えばよく付き合ってくれたと思う。十年が過ぎ、訳稿を藤本満牧師にお見せしたところ、お世話くださって思いがけなくも日本聖化協力会出版委員会から「神の物語」として出版、二刷を重ね、現在はヨベル社から新書上下二巻で流通している。
その後、ロダールの来日・講演や、神の物語由来のぼくの著書の刊行などただただあっけにとられる展開が続いている。
一冊の本との出会いが人生を変えることがあるのだ。
(おおず・しんいち=日本イエス・キリスト教団明野キリスト教会牧師)

書き手
大頭眞一

おおず・しんいち=京都信愛教会/明野キリスト教会牧師、関西聖書神学校講師

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