改革派伝統とは何かを知る古典的名著
〈評者〉吉田 隆
著者のマクニールは、『キリスト教牧会の歴史』(吉田信夫訳、日本基督教団出版局、一九八七年)という書物以外に、日本ではあまり知られていないかもしれません。
しかし、マクニールの名は、特に英語圏のカルヴァン研究者の間では、一九六〇年の出版以来、現代英語訳の決定版として実に六五年以上も広く受け入れられてきた『キリスト教綱要』の産みの親として有名です。“マクニール/バトルズ版”として知られるこの英訳本は、単に翻訳の読みやすさのみならず、膨大な脚注によって、カルヴァンの神学思想を古代から宗教改革の時代に至るキリスト教諸文書をはじめギリシャ・ローマの古典的遺産の中に位置付けようとした、英語圏カルヴァン研究者たちの総力を結集した金字塔です。マクニールは、その編集者として最終責任を負った人物なのです。そのマクニールが、一般に「カルヴィニズム」とも呼ばれる改革派/長老派伝統の「歴史と特徴」を、その起源から現代に至るまで、さらにスイスから世界的広がりまで、おそらくは何巻にもわたるであろう内容をコンパクトに一冊にまとめた古典的名著が本書です。
以下、簡単に内容をご紹介しましょう。
第一部は「フルドライヒ・ツヴィングリとドイツ語圏スイスにおける宗教改革」(通常“フルドリッヒ”と表記されますが、原著がHuldreichとなっています)。著者は適切にも改革派伝統の起源を、ツヴィングリを始めとするスイス宗教改革に見出します。第二部は「カルヴァンとジュネーブにおける宗教改革」。全体の三分の一を占めるこの部分は、言うまでもなく、著者が最も力を入れて記している箇所です。カルヴァンの生涯のみならず、その人格や歴史的重要性に至るまで、この部分だけでも本書を手元に置く価値ある叙述です。第三部は「ヨーロッパと初期アメリカにおける改革派プロテスタント主義の広がり」。フランス・ネーデルランド・ドイツ・東ヨーロッパ・スコットランド・イングランド・アイルランド・アメリカにおける改革派伝統の広がりという、おそらく私たち日本の読者にとっては最も知識が欠落もしくは斑状になっている部分でしょう。第四部は「カルヴィニズムと現代の諸問題」。ここでは、単に狭い意味での教派伝統にとどまらない、思想や社会に広く影響を与えてきたまさに“カルヴィニズム”という名にふさわしい諸側面が、特にエキュメニカルな視点から描かれます。
この最後の箇所を読むと、マクニールの考える「カルヴィニズム」が、カルヴァンの神学伝統を忠実に継承しようとするいわゆる“正統主義”的伝統よりも、プロテスタント伝統のルター派でも再洗礼派でもない(いわば引き算で残った)伝統を包摂するような広い理解を持っていることがわかります。いずれにせよ、この伝統の複雑多岐にわたる歴史と特徴を一冊にまとめたような書物は、ほとんど類書が見当たりません。その意味で、カルヴァンとカルヴィニズム(改革派伝統)とは何かを知るための必須かつ標準的な書物と言うことができるでしょう。
訳者の髙内氏は、地方における多忙な伝道牧会の働きの傍らで訳業をコツコツと積み重ね、七〇歳の定年引退の年に成し遂げられました。その多くのご労苦に心からの敬意と感謝を捧げたいと思います。

















