
朝日新聞に連載されていた夏目漱石の『行人』は、漱石自身が胃潰瘍のため、大阪の病院に入院し中断する。その病院の院長は、日本人初のノーベル物理学賞受賞者、湯川秀樹の義父であり、義母は私の曾祖母と従姉妹である。そういう縁で、私は社会人となって、氏の『旅人─ある物理学者の回想』(角川文庫、一九六〇年初版)を入手し、熟読した。書中の表現を借りると、孤独な旅人に助け合って歩む道連れが与えられたこと、朝永振一郎というすぐれた同行者や物理学の勉強を可能ならしめた同行者を得たことへの感謝の言葉が特に印象に残った。
私の最も近くにいて苦楽を共にしてくれた同行者は、妻であり四人の子どもたちであるが、今日まで多くの同行者を与えられたことに感謝している。これらの人々に出会わなければ、私は違った道を歩んでいたと思う。電気工学を専攻した学生時代にアメリカ人宣教師夫人のバイブルクラスに誘われ、初めて聖書にふれ、御坊バプテスト教会で受洗した。とくに、藤井力牧師からキリスト者としての的確な方向づけをいただいた。また、内村鑑三の「余は人の救いなるものは、聖書の研究と離るべからざる関係をもつものであると信じる。」(『一日一生』)との言葉に感銘を受けた。これは後の私の聖書学研究につながる。
大阪に出て十三年間、産業界で働いた後、御言葉を与えられて献身したが、牧師と並行して、さらに学びを深め、三十有余年、神学教師として歩んだ。また、現在の教会に着任して四〇年このかた、幾度も挫折を経験したが、同行者である教会の兄姉に支えられてきた。とりわけ、コロナ禍により礼拝出席者が激減した会堂の中にも、主の臨在を感じている。これからも、人生のかけがいのない同行者に感謝しつつ、旅を続けたい。
(つむら・はるひで=大阪日本橋キリスト教会牧師)













